血生臭い記憶を書く
繰り返されるイメージの根幹ともなるのが、ローマ法王、ヨハネ・パウロ2世(1920~2005年)が1981年に広島で演説した際の「戦争は人間のしわざです」という言葉だ。文中ではこう問いが投げかけられる。
《原子爆弾で全身黒焦げになった乳飲み子を抱えた母親が赤ちゃんを抱いたまま死んでいくのも人間のしわざであったとしても、では、そのとき、神さまはいったいどこにいらしたのか?》
「当時からずっとこの言葉にひっかかっていて…。30年以上考えていたことを、今回、問いかけながら書きました。けれど、問いは発しますが、解は持ち込みづらいですね」
幻想の中に引きずり込まれていくような表題作。対して、「神のみわざ」ではその後の男と息子の関係を、くっきりした筆致で描いた。「表題作が書きながらぬかるみにはまっていくようなものだとしたら、『神の~』はそこからの再生のようなイメージの作品です」