【本の話をしよう】
2010年に『忍び外伝』で朝日時代小説大賞、さらに映画化もされた『完全なる首長竜の日』で『このミステリーがすごい!』大賞をそれぞれ受賞し、注目を集めた作家、乾緑郎さん(44)。時代伝奇小説からミステリーまで、引き出しの多さを感じさせる新鋭だ。連作短編集『思い出は満たされないまま』では、古びた団地を舞台に、ノスタルジーを感じさせる世界観を作り上げた。
団地を主人公に
「特定の誰かではなく、団地が主人公です」という通り、物語で重要な存在感を示すのは、東京・多摩地区のはずれにあるマンモス団地だ。かつては若い家族のにぎやかな活気であふれていたが、今は半数以上が高齢者世帯となっている。「団地って、僕の子供のときははつらつとした雰囲気でした。団地マニアの人向けのDVDがあるのですが、それを見ると、かつてはおしゃれなファミリーが集まってパーティーをするようなイメージだったんですね。でも、今はお年寄りが多く、なんだかさみしい雰囲気。年を取るのは人だけではないのだな…と思います」