記者として東京を見つめ続けてきたリチャード・ロイド・パリーさん。「今回は裏の部分を書いたけれど、安全だし清潔だし、世界で一番すばらしい都市だと思う」と愛情をのぞかせた=2015年5月7日(塩塚夢撮影)【拡大】
【本の話をしよう】
2000年7月、一人の英国人女性が東京の闇に消えた-。特異な経緯と犯罪形態から社会の耳目を集めた「ルーシー・ブラックマンさん事件」。発生当時からこの事件を追い続けた老舗英国紙「ザ・タイムズ」の東京支局長、リチャード・ロイド・パリーさん(46)が、その蓄積を『黒い迷宮 ルーシー・ブラックマン事件 15年目の真実』に結実させた。単なるクライム・ノンフィクションにとどまることなく、万華鏡のような構成で人間、そして東京の闇に迫った。
人間の複雑さに挑戦
手に持つと、ずしりと重い。400ページにも及ぶ大長編だ。「この事件について、私は最初、一人の新聞記者として取材を始めました。しかし、そのうちにわずか数百語の記事ではおさまらないものが見え始めた。犯人の人間性をはじめ、あまりに謎が多い。人間の抱える謎を満足できるまで語るためには、これだけの分量が必要でした。とはいえ、読者に飽きずに読んでもらわなければならない。フィクションで使われる一人語りの手法も取り入れましたし、1つの真実を追い求めるのではなく、さまざまな視点を万華鏡のように組み合わせました」