帰還者は厄介者
作中で印象的なのは、強制収容所からやっとの思いで帰還したネリーに対し、かつての知人たちがみせる何げない態度だ。その存在にまったく気づかなかったり、または気づかないふりをしたり…。実はネリーと再会したジョニーにもそんな節がうかがえる。「きっと戦争にまつわるものにはもう一切関わりたくないという心理が働くのでしょう。帰還者の体験談など聞きたくもないはずです。もはや帰還者は亡霊のような存在であり、厄介者でしかないのです。全体を通して表情に乏しいネリーは亡霊のメタファーなのです」。ペッツォルト監督は、残された者たちが見せる心変わりの残酷さを強調した。
そんな複雑な心理描写の背景には、自らの母親の心理が組み込まれてしまったのではないのか-。ペッツォルト監督は考えるときがあるという。「母の家族はナチスの党員でした。私は10歳のとき、当時の社会や家族の状況を質問しましたが、母は何も話そうとはしませんでした。そんな母の様子をうかがうと、ナチス・ドイツの時代である1933年から45年までの記憶があたかも存在せず“ブラックホール”に吸い込まれてしまったかのようにも見えました。でも70年代になり、母の心境にも変化が生まれたようで、ようやく当時の記憶を思い出しては語るようになったのです」