杉原の役どころを務めるには、外交官という特殊な仕事内容、国際情勢、語学に関する広範な知識が要求されるほか、撮影現場では共演の外国人たちとの円滑な意思疎通も求められた。当初は杉原に関する基本的な知識すら心もとなかったと明かした唐沢は、「大きな功績を残したのに知名度が低い人物を知ってもらいたい-。その思いだけでした」と語り、何が何でもグラック監督に付いていくと覚悟を決めた。
「まあ、僕だって杉原について最初から詳しい知識があったわけではありませんよ。杉原と同様の行為をした主人公を描いた映画『シンドラーのリスト』(スティーブン・スピルバーグ監督、93年)が公開されたとき、杉原が『日本のシンドラー』と報道されて、僕は興味を持ったぐらいですからね」。隣から控えめに言葉を添えたグラック監督が撮影中に唐沢に出した唯一の注文は、「自然に演じてくれればいい」というものだった。リサーチの結果、杉原自身が自分に嘘をつかず自然体で生きた人だったらしいことが分かったからだ。グラック監督はよほど自分のイメージと違ったものでない限り、唐沢の演技を尊重したという。