さて、いよいよ搭乗時間が迫ってきた。出発は辺りが暗くなり始める16時30分だ。ゲートを通った子供の中には、興奮や喜びを隠せずにピョンピョンと飛び跳ねたり、小走りで飛行機に向かう子もいた。荷物を抱えながらあとを追う親はけっこう必死だ。
機材は座席数237席のボーイング767-300。筆者は23列目のシートに着席した。前後を見渡すとほぼ満席のようだ。ちなみに便名は「JAL8910」。すぐに気づいた方は鋭い。そう、8910=HAKUTO(ハクト)だ。客室乗務員は7名で、全員の名前に「月」「星」「白(=白兎)」のいずれかが入っているという。なんとも洒落のきいた演出だ。
ついに離陸、北の空へ
定刻から少し遅れて成田空港を離陸した。機体は北に向かってぐんぐんと高度を上げていく。外に広がる景色が遠くなり、そのうち空は暗くなっていった。機内は想像以上に静か。子供たちはみな無言で窓の外を見つめているようだ。
やがて飛行機は厚い雲の中に突入し、筆者は搭乗時に受け取った弁当を掻き込んだ。雲の中では乱気流による揺れもあったが、いったん雲の上に出ると機体の揺れはピタリと収まり、シートベルト着用のサインが消えた。
しばらくすると、機体の右列に座っている参加者たちから「月が見えた!」という声が聞こえてきた。真ん中の列に座っていた筆者も右側の席に移動して窓の外をのぞくと、窓の片隅にきれいに輝く満月が視界に入った。
「あれがスーパームーンか…」
世間では、今年最も小さく見えた満月に比べて3割ほど大きく、いつもより明るく見えることが話題となっていた。筆者もそこに注目していたが、むしろ第一印象は、プラチナ色に輝く宝石のような「美しさ」だった。
どこまでも広がる雲海と大きな空の中では比較対象などなく、満月の大きさを実感しづらいが、そんなことはどうでもよかった。とにかく、息を呑むほどに美しい。ここは上空3万8000フィート。メートルに換算すると1万メートルを超えた辺りだ。地上に比べて大気の透明度が高いということもあり、澄んだ空気の先に浮かぶスーパームーンは格別に美しい。イベントの翌日にいろんな人から「スーパームーンはどうだった」と聞かれたが、筆者がとにかく強調したのが、いつも地上から見ている満月よりも鮮明に輝くその美しさだった。