日米貿易、「牛肉・オレンジ」並みの摩擦を警戒 かつての「煮え湯」脳裏に

 
レーガン政権下での主な日米通商交渉

 日米首脳会談ではトップ同士の蜜月ぶりが際立ったが、懸案の通商分野は新たに設置するハイレベル経済対話に検討を先送りした。トランプ米大統領が政権運営の手本にするレーガン元大統領時代にも、日本は貿易摩擦で煮え湯を飲まされただけに、自動車と並ぶ焦点になりそうな農業分野でかつての「牛肉・オレンジ交渉」並みの攻勢を受けると警戒する声が出ている。

 「今回は日米で議論の枠組みを設定しただけ。具体的な交渉はこれからだ」。経済官庁幹部は経済対話の設置に気を引き締める。首脳会談では、自動車市場や為替をめぐり対日批判を繰り返したトランプ氏の“暴言”が鳴りを潜めた。ただ、多額の貿易赤字に対する米側の不満はくすぶったままだ。2国間の貿易関係や財政・金融などのマクロ経済政策は今後行われる経済対話で改めて協議する。

 和やかだった首脳会談とは異なり、経済対話では厳しい局面も予想される。1980年代にはレーガン元大統領と中曽根康弘元首相が「ロン・ヤス」関係と呼ばれる信頼関係を築いたが、その間、自動車や半導体、農業などの分野で貿易摩擦が激化。米国の貿易赤字改善を目指した85年のプラザ合意を境に、日本はバブル発生とその崩壊に導かれ、深い傷痕を残した。

 それだけに、全国農業協同組合中央会(JA全中)の奥野長衛会長は「2国間交渉で農産物の話になればいい話が出るはずがない」と危機感を募らせる。

 脳裏をよぎるのは88年に決着した牛肉・オレンジ交渉だ。輸入拡大を迫る米国に対し、日本は輸入枠の撤廃を受け入れた。米国内総生産(GDP)に占める対日貿易赤字は過去20年間で半減したが、貿易収支の悪化を背景に譲歩を迫る構図は現状と重なっている。

 キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は「2国間交渉が始まれば米国は牛・豚肉、コメなど『重要5分野』で環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)以上の市場開放を求めてくる」と分析する。

 米国はTPP交渉で、コメの輸入枠拡大や牛肉関税の1桁%までの引き下げを要求。日本側は重要5分野を「聖域」と位置付けて抵抗したが、結果的に、コメは関税を維持するが無関税の輸入枠を新設した。牛・豚肉は緊急輸入制限(セーフガード)を導入したが、関税を大幅に引き下げた。これ以上の譲歩は生産者にとって死活問題になる。

 一方、トランプ氏は大統領就任後、農業政策について具体的な言及がない。農林水産省幹部は「政府の中でも情報が共有されていない。米国の出方を見守るしかない」と述べ、嵐の前の静けさに頭を抱える。(高木克聡、田辺裕晶)