国から委任・委託を受け公的年金事業の運営業務を担う日本年金機構の本部=東京都杉並区【拡大】
こうした場合の検討はほとんど行われていないようだが、「その利益の存する限度において」というくだりから解釈すれば、相当分の貯蓄も相続財産もないケースにおいては、返還義務がないといえるのではないか。このくだりは、法律家の間では「現存利益の返還義務」と言う。つまり、既に「現存利益」がない場合には、返還義務がないということだ。従来は民法703条を根拠に当然のように行われてきた事務ミスによる過払いの返還請求だが、再検討が必要である。
◆ヒントは内払い調整
この問題を考える際に、もうひとつ参考にすべき現行制度の仕組みがある。それは「内払い調整」である。「内払い調整」とは、例えば、夫の死亡届の提出が遅れたり、出し忘れたりして、本来であれば停止すべき年金給付が支払われたときなどに、その後に妻に支払うべき年金の内払いとみなして調整を行う仕組みだ。国民年金法21条に定められている。「内払い調整」に関する例外規定に、今回の年金過払いの返還請求を再検討する際のヒントがある。
その例外規定とは、「計算間違いの場合には内払い調整の規定は適用されない」ことを定めた1965年9月3日の通達。つまり、事務ミスの場合の例外規定を定めている。同様に考えれば、過払いの返還請求についても、日本年金機構自身の事務ミスの場合には、何らかの工夫があってしかるべきだ。