
フジサンケイビジネスアイの鈴木正行副編集長【拡大】
自動車メーカーも積極的な技術開発を進めている。トヨタ自動車は、20年代前半に一般道で自動運転できる技術の実用化を見据える。日産自動車は、高速道路の単一車線で自動運転できる機能の搭載車を販売しており、20年ごろには一般道でも導入する計画。ホンダは25年をめどに一定の条件下で人が関わらない「レベル4」の自動運転の実現を目指す。車の割り込みや歩行者の動きなどをどう予測するかの鍵を握るのが人工知能(AI)技術で、IT企業など異業種を含めた開発競争が激化している。
こうした中で、すっぽり抜け落ちている議論がある。都心で自動運転を導入した場合の公共交通のあり方だ。日本総合研究所創発戦略センターの井上岳一シニアマネジャーは「都市では『公共交通の代替』『徒歩圏の新たなモビリティ』『非日常のモビリティ』として自動運転があり得る」と指摘するが、国内ではまだこうした議論が進んでいない。
理由の一つとして、国内の自動車産業への“配慮”がある。公共交通で自動運転車が普及すれば、移動手段としてのマイカーを持つ人が減ってしまう。自動車の需要が減少すれば、中小企業の裾野が広い自動車業界への影響が懸念されるからだ。
海外に目を向ければ、都市部で自動運転システムを活用しようとする動きが始まっている。シンガポールでは、昨年8月に世界に先駆けて自動運転タクシーの実用試験が始まった。今年4月には、同国の科学技術庁や大学などが参加したコンソーシアムが、自動運転バスを開発すると発表した。同国の南洋工科大(NTU)は、仏自動車メーカーと協力し、GPS(衛星利用測位システム)やカメラ、センサー式測定装置などの機器を搭載したバスを公道で走らせる。国土が狭く、渋滞解消のため個人の車所有を制限している同国ならではの取り組みともいえるが、政府には、効率的で利便性の高い移動手段の確保や、バス、タクシー運転手の人手不足の解消という狙いもある。