【飛び立つミャンマー】高橋昭雄東大教授の農村見聞録(51) (2/3ページ)

地方から集まった農民・農業労働者組合の若きリーダーたち。この日は金融システムについての講義を受けていた=2017年9月、ヤンゴン市パンソーダン通りのIPSJ事務所(筆者撮影)
地方から集まった農民・農業労働者組合の若きリーダーたち。この日は金融システムについての講義を受けていた=2017年9月、ヤンゴン市パンソーダン通りのIPSJ事務所(筆者撮影)【拡大】

 現政権下の16年5月に再編成された「農地等接収問題再調査委員会」が17年4月に出した報告書によると、16年3月から17年3月までに新たに1万6945エーカーが返付された。つまり、前政権期から合計すると、76万8719エーカーが元の持ち主に戻ったことになる。

 それでは、国軍、政府、企業などが不法に横奪した土地が全部でどれくらいあるのだろうか。残念ながら、前政権下でも現政権下でも、政府発表の資料ではわからない。新聞報道によると、不法に収用された土地は600万エーカーで、うち国軍が行ったのが400万エーカーある(Irrawaddy 13年7月11日付)とか、農地没収面積は約500万エーカーで、年間500万トンのコメ生産量に相当する(Eleven Daily 16年2月22日付)といった説がある。全国の総農地面積3000万エーカーの5分の1から6分の1が不法に没取されていたことになるので、にわかには信じがたいが、今でもしばしばこの問題が議会やマスコミで取り上げられているのを見ると、77万エーカーの還付では済まないことも確かであろう。

 ◆農民の組織化に着手

 こうした問題に取り組むNGOのひとつ、Institute for Peace and Social Justice(IPSJ)を17年9月に訪問した。設立者で現代表でもあるタウントゥン氏は、1988年の民主化運動に参加し、クーデターの後にタイに脱出して、全ビルマ学生民主戦線(ABSDF)の結成メンバーとなり、96年からはビルマ連邦国民連合政府(NCGUB)の国連常駐代表を務めた、民主化の闘士である。2012年、彼の名はブラックリストから外され、同年12月に帰国した。IPSJは、12年に彼がニューヨークで設立した。今も運営資金は主にニューヨークで調達されている。

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