中国が世界貿易機関(WTO)に加盟したとき、各国は市場経済国への変貌を期待した。だが、知的財産権侵害や不公正な貿易慣行は改まらない。期待が裏切られることの繰り返しなのである。
日本の対中外交が分かりにくいのは、米国などと共有するインド太平洋戦略との整合性が見えないからである。
自由で開かれた国際秩序を目指す同戦略は一帯一路と対立する概念だ。実現のため質の高いインフラ投資で各国との連結性を高めようとしている。先の日米首脳会談でもインフラ整備の日米協力を確認した。中国の覇権主義を阻むのに日米の連携は不可欠である。この基本が一帯一路への協力であいまいになる。
中国が日本に接近を図る背景には、対米関係の悪化という事情がある。一帯一路に対する各国の警戒を和らげるため、日本の後押しを渇望しているのかもしれない。うかつに乗れば、日本が築いてきた信頼も損ないかねない。
やはり前のめりに動くのは危うい。拙速を避けて一帯一路に一線を引くべきだ。首相訪中の「土産」として成果を焦るようでは、大きな禍根を残すことになる。