■みずほの「Jコインペイ」も手数料が高い
そこで、他のメガバンクによるデジタル通貨発行計画を見よう。みずほの「Jコイン」も伸び悩みみずほフィナンシャルグループは「Jコイン」という名称のデジタル通貨を提供する方針を明らかにしていた。
しかし、2019年3月に始まったのは、QRコードを使ったスマートフォン決済サービスである「Jコインペイ」だった。
参画する地方銀行などが、実際の運用を行う。銀行口座からアプリにチャージする場合や、アプリ内のJコインペイの残高を銀行口座に戻して現金化する場合には、手数料は無料だ。Jコインペイに参画している銀行であれば、異なる銀行間でも手数料無料で送金できる。この点では、他のQRコード決済の電子マネーより有利なので、利用者が増えるだろうとの期待があった。
しかし、実際には、顕著には増えなかった。なぜか?
それは、手数料が高いからだと思われる。ここで「手数料」というのは、消費者が利用する場合の手数料(銀行口座との間の出し入れや送金手数料)ではなく、店舗が電子マネー提供事業者に支払う手数料のことである。加盟店手数料は非開示だ。
Jコインペイの公式サイトには、つぎのように記されている。
「導入費用は0円。加盟店料率(決済手数料)は各取扱金融機関により異なる」
加盟店手数料については、高知市が2019年7月に開催した「キャッシュレス対応フェア」の際に公表した資料がウエブにある。
それによると、Jコインペイの加盟店手数料は、売り上げの1.5~3.0%となっている。これはかなり高い手数料だ。
Jコインペイは「3~5%程度とされるクレジットカードより低くする」と約束しており、それは実現されているのだが、それでも高い。
2019年10月1日~2020年6月30日までの期間には、他の電子マネーが手数料を2.16%または2.17%としていた。これは国の補助があったからだ。この影響もあってJコインペイは伸び悩んだのだろう。
184加盟店は、Jコインペイに参加する金融機関が自らの営業エリアの取引先を中心に開拓する。みずほというメガバンクが自ら加盟店舗獲得をするのは難しいからだろう。
■次々に誕生した「銀行ペイ」のメリットがわからない
なお、Jコインペイと同じようなサービスである「銀行ペイ」が2016年に開発され、横浜銀行の「はまペイ」、福岡銀行、十八親和銀行、熊本銀行の「YOKA!ペイ」、沖縄銀行の「OKIペイ」などが参加した。そして、2019年5月からは、ゆうちょ銀行の「ゆうちょペイ」が始まった。
乱立としか言いようがない状態だ。利用者の立場からすると、どれを導入してよいのか、皆目見当がつかない。
■手数料収入を当てにする方針は間違っている
マイナス金利で収益が悪化する銀行にとって、QRコード決済による手数料収入は、新たな収益源だ。そこで、銀行としては、何とかしてこの事業を成立させたい。しかし、加盟店開拓は容易なことではない。
店舗が集まらない基本的な理由は、手数料が高すぎることだ。2~3%の手数料というのは、現在のATM利用の手数料と同レベルだ。
日本の小売業の売上高営業利益率は3%程度である。さまざまな経費をかけてやっとこれだけの利益を出したのに、電子マネーの店舗手数料でそのすべてを巻き上げられてしまうのでは、店舗が使うはずはない。
Suicaなどの交通系電子マネーの店舗手数料も高いが、駅内店舗の場合には導入せざるを得ない事情があるのだろう。また、nanacoなどのコンビニエンスストア系の電子マネーは、ポイントと結びついている。
しかし、これら以外は無理だ。Jコインペイが伸び悩む基本的な理由は、この点にある。
MUFGのcoinも同じ問題に直面しているのではないかと考えられる。つまり、Jコインペイと同じようなレベルの手数料を設定しており、このため、店舗が集まらない。そこで、リクルートのサイトで始めるようにしたのではないか? こう考えれば、利用先をリクルートに限定した理由が分かる。
しかし、ブロックチェーンを用いるデジタル通貨であれば、コストはずっと低くできる。そのため、手数料をゼロに近くすることができる。手数料ゼロなら、加入店を開拓するために努力する必要はない。逆に言えば、メガバンクが手数料収入を当てにデジタル通貨サービスを始めようとするのは、間違いだ。
「日本人はキャッシュ志向が強いためにキャッシュレスが進展しない」と言われる。しかし、コロナ期においては、現金を介しての感染の危険があるため、日本でもキャッシュレス化への需要は高まった。
それにもかかわらず手数料が高いために、店舗が利用しようとしないのだ。日本でキャッシュレス化が進まない大きな原因は、ここにある。
野口 悠紀雄(のぐち・ゆきお)
一橋大学名誉教授
1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問を歴任。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。著書に『「超」整理法』『「超」文章法』(ともに中公新書)、『財政危機の構造』(東洋経済新報社)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)ほか多数。
(一橋大学名誉教授 野口 悠紀雄)(PRESIDENT Online)