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SNSは発信ツール、取材が大切 「真実は一つではない。自分だけの正解がある」

2012.9.1 13:00更新

「伝えることの大切さ」をテーマに行われたジャーナリズム学生選手権=2012年8月9日、東京都千代田区の日本プレスセンター(ジャーナリズム学生委員会主催撮影)

ジャーナリズム学生選手権 高度情報社会に生きる私たち(下:2-1)

 学生有志で組織するジャーナリズム学生委員会とEXが共催し、今月(2012(平成24)年8月)9日に行われた「ジャーナリズム学生選手権2012」。「高度情報社会に生きる私たち」をテーマに広く学生から新聞記事を募り、コンペ方式で優秀作を競う大会で、3人の入選者によるプレゼンテーションやジャーナリストの田原総一朗さんらゲストによるパネルディスカッションが行われた。キャンパス新聞番外編の3回目では、ジャーナリズム学生委員会の代表、鬼頭慶多さんが、大会の様子をリポートする。

 プレゼンテーション 入選3作品総括

 「伝えることの大切さとは何か。ジャーナリズムとは何か」

 大会のテーマを問いかけるオープニングムービーの放映でジャーナリズム学生選手権は幕を開けた。ジャーナリズム学生委員会(JSC)の鬼頭代表があいさつで、「人々の中から東日本大震災の記憶が薄れている。時間がたてばたつほど、どんどん薄れていく。だからこそ僕たちにはジャーナリズムが必要なのではないか」などと、選手権を開く訳を語った。

 続いて入選3作品の筆者によるプレゼンテーションが行われた。1人目は「意見発信しない『ROM専』たち~高度情報化社会の矛盾~」という記事を書いた上智大学の久原啓さん。

 久原さんはSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)を使って行ったアンケートを基に、多くの若者が社会に問題意識を持っているにもかかわらず、知識がないことや意見を発信しても意味がないと考え、実際には意見を発信していないと指摘。SNSという新たな情報発信力を使い、自主的に意見を発信していくべきだと訴えた。

 さらに久原さんは、審査員からの質疑で、「若者が知識を得たり、意見を発信できたりするプラットホームを作りたい」と将来の夢を語った。

 2人目の早稲田大学の早瀬翔さんは「震災の『真実』伝えたYouTube~既存メディアの限界超える~」という記事を書いた。

 早瀬さんは、YouTubeは原発の爆発シーンや津波に流される人や車の映像を伝え、既存メディアが報じない「真実」があると主張。震災を忘れないためにも、こうした「真実」を伝えることが大切だと指摘した。さらに誰もが真実の情報の担い手、ジャーナリストになれると訴えると同時に、情報の受け手には、真実の情報を見抜く力が必要だと結論づけた。質疑では、「見抜く力を身につけるにはどうすればいいのかまで踏み込んでほしかった」との注文がつき、「これからのテーマにしていきたい」と答えた。

 3人目は「SNS普及で情報加速化~時代の流れつかみ、『ソー活』で急成長」という記事を書いた上智大学の高橋輝さん。高橋さんは、SNSを使った「ソー活」で急成長する企業を紹介する記事から踏み込み、広告や宣伝などの情報の危うさを紹介。「情報という言葉の意味についてもう一度考えなければいけない」と問いかけ、「真実は一つではない。自分だけの正解がある」と訴えた。

 質疑では、「ウェブマガジンを立ち上げ、学生によるインタビュー記事などを発信していきたい」と、卒業後の進路について語った。

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 パネルディスカッション 審査員から辛口エール

 審査員を務めたブロガーのイケダハヤトさん、元ジャーナリストの上杉隆さん、経済ジャーナリストの内田裕子さん、市民メディアアドバイザーの下村健一さんに、ゲストとしてジャーナリストの田原総一朗さんが加わり、パネルディスカッションを行った。

 「ジャーナリズムとは何か」との問いかけに対し、イケダさんは「ジャーナリズムとは報道。自分は表現活動をしている」と、ジャーナリズムと一線を画す立ち位置を語った。内田さんは「現場にある真実をきちんと取材し、ニュートラルに伝えることが大切」と話した。

 田原さんも「常に一次情報を取材すべきである」と、当事者にぶつかっていくことの大切さを説いた。上杉さんは「日本のメディアはビジネスの面においては優秀だが、情報にバイアスがかかり、ジャーナリズムの面においてはほとんど機能していない」と話した。

 既存のメディアと誰もがジャーナリストになれるSNSの可能性についても討議。田原さんは「マスメディアは何も真実を伝えていない。既存メディアの限界を知るためにも、雇われジャーナリストになってみるべきだ」と、皮肉たっぷりに学生にアドバイスした。

 イケダさんは「個人でやっていくには、自分で稼いで食べていくことが大切」と指摘。「メディアは情報発信のツールで、SNSもその一つでしかない。伝えるのは実際に取材する人。そこに惑わされてはいけない」と上杉さんが語り、パネルディスカッションを終えた。

 審査の結果、早瀬さんが審査員が選ぶ最優秀賞と来場者による会場賞をダブル受賞した。審査員の講評で、下村さんは「記事はいずれも取材不足。YouTubeに実際に投稿した人、意見を発信しない『ROM専』の若者、ソー活をしている学生の声をきちんと拾ってほしい」と辛口のエールを送った。3人は新たな挑戦を誓い、大会は幕を閉じた。

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