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アップル黄金時代に陰り? 地図アプリに誤表示…ユーザーの信頼揺らぐ
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羽田空港の場所を大王製紙と誤表示するアップルの地図アプリの画面 9月21日に発売した新型スマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)5」が、発売から3日間で、前の型の「4S」より100万台も多い500万台を売るなど、相変わらず絶好調の米アップルですが、最近、その破竹の勢いにブレーキがかかり始めています。
きっかけは「地図アプリ」を巡る米グーグルとのトラブルです。「5」の発売日である9月21日には、株価が76年の創業以来、過去最高となる705ドル(約5万8000円)を付けましたが、その後、こうしたトラブルのせいで下落傾向に転じ、11月に入ってからは3割減の550ドル(約4万5000円)を切ることも。ユーザーの絶大な信頼も揺らぎ始めています。
ロイター通信やAP通信によると、アップルは「アイフォーン5」やタブレット端末「iPad(アイパッド)」に新基本ソフト(OS)「iOS6」を搭載したのを機に、これまで搭載していた米グーグルの地図アプリ「グーグルマップ」を削除し、自社開発した新しい地図アプリを採用しました。
自社アプリを優先し、最大のライバルであるグーグルの地図アプリを排除するのはごく普通の企業の論理でしょう。特に生き馬の目を抜くIT(情報技術)業界なら…。
ところが「5」の発売直後から、自信満々で採用したこの新しい地図アプリが前代未聞の誤作動を起こすことが判明。各国の利用者から「シェークスピアの生誕地、英ストラトフォード・アポン・エイボンが消えた」「羽田空港が大王製紙と表示されている」といった苦情が殺到。利用者の信頼は大きく失墜しました。米で発売された初代からずっとアイフォーンを使っている記者も、この地図アプリにはがっかりしました。
アップル側は当初「今後、利用者が増えるほど精度が向上する」とダンマリを決め込みましたが、ジョブズ氏からバトンを引き継いだティム・クックCEO(最高経営責任者)は9月28日、利用者に向け謝罪文を出しました。
このトラブルを受け、アップルは10月29日「iOS」や地図ソフトの責任者スコット・フォーストール上級副社長と、直営店「アップルストア」など小売り部門を担当するジョン・ブロウェット上級副社長の2人を更迭する大胆な人事刷新を断行しました。
フォーストール氏は97年にアップルに入社し、伝説的な創業者でアップルのトップだった故スティーブ・ジョブズ氏の片腕として製品の心臓部にあたるソフト関連部門を統括。「アイフォーン」や「アイパッド」の発表会には必ず登場する有名人となり、ジョブズ氏の次のCEOと報じられたこともあるやり手でした。
しかし米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)などによると、超やり手である半面、ジョブズ氏の威を借る傲慢さと非協調性に加え、アップル製品の要でもあるデザイン部門を率いるジョナサン・アイブ氏とは「どんな局面でも協力しない」ほど険悪な仲だったといい、ジョブズ氏亡き後、社内では浮いた存在でした。
そんなところに地図ソフトで誤表示が頻発(ひんぱつ)。ところがフォーストール氏は自分が責任者であるにもかかわらず、利用者に向けた謝罪文へのサインを拒否する傲慢ぶりを発揮。仕方なくクックCEOだけがサインするというあり得ない事態となりました。
ブロウェット上級副社長は今年4月、英国最大の家電小売店ディクソンズのCEOから現職に迎え入れられましたが、直営店「アップルストア」の従業員への給与削減や著しい労働強化が大きな非難を浴びたため、就任からわずか半年にも関わらず「当初からアップルには合わない人材だった」として更迭されたといいます。
2人を更迭したクック氏の決断について、欧米メディアの中には評価する声もありましたが、多くは懐疑的なものでした。
10月31日付ロイター通信は「アップルの内紛は黄金時代の終焉(しゅうえん)の兆候か」との長尺コラムを配信。その中で「アップルの過去数十年の驚異的な成功は、デザインとテクノロジーのバランスを維持するという驚異的な能力によるものだが、幹部の内紛はそのバランスを損ない、アップルが普通のテクノロジー企業に成り下がる最初の兆候かもしれない」と強い調子で批判しました。
アップルへの信頼があらゆる意味で揺らぐなか、追い打ちをかけるような衝撃的な出来事が起こりました。11月16日付WSJ(電子版)のスクープなのですが、何とグーグルが「アイフォーン5」や「アイパット」などで使える新型地図アプリのテスト版を完成させたというのです。アップルの許可が下りればアプリ販売サービス「アップ・ストア」で配布が始まります。
WSJが関係筋の話として伝えたところによると、グーグル側は既にこの新型の地図アプリを複数の外部関係者に配布したといい、アップル側が最近、グーグルが申請した複数のアプリの販売・配布を許可したと報じました。ただし、具体的な配布開始時期などは明らかになっていません。
アップルに自慢の地図アプリをボツにされたグーグルは、アップルが地図アプリの誤表示を巡るゴタゴタで慌てている間にリベンジを果たすべく、新たな地図アプリの開発作業に着手していたのです。
たとえ、いまいましいライバル、グーグルのアプリでも、アップルとしては正式な手順を踏んで申請してきたものを理由なく却下することはできません。誇り高き無敵のアップルにとって、これほどの屈辱があるでしょうか…。
当然ながら、欧米メディアはWSJの報道を引用し、このニュースを大々的に報道。グーグルの地図アプリが再び「アイフォーン5」や「アイパッド」上でゾンビのように蘇るとの論調で、地図アプリ対決はグーグルに軍配があがると予想しました。
とりわけ11月16日付米経済誌フォーチュン(電子版)は「消費者はアップル(の地図アプリ)のサービスはめちゃくちゃで、グーグルの方がより最適だと考えている。それは事実で、アップルはいま、すべての競争相手の前で動揺している」と厳しく批判しました。
この頃から株価が大きく下がり始めるわけですが、ここでよく考えてみましょう。「アイフォーン」も「アイパッド」も携帯音楽プレーヤー「アイポッド」もまだ発売されていない今から10年前の2002年11月。アップルの株価は7ドル75セント(約635円)でした。そして現在の株価は前述したように550ドル(約4万5000円)前後。つまり、10年間で約70倍に化けたわけですね。こんなミラクルな企業は世界にただ1社、アップルだけです。
株といえば最近、関西の小金持ちの話題はもっぱら関西電力とパナソニックの株価です。関西を代表する無敵の超優良安定鉄板銘柄であるこの2社ですが、現在の株価は、関電が東日本大震災前の約3分の1、パナソニックの方は2000年に比べると4分の1から5分の1という惨状です。
アップルの株価と、関電やパナソニックの株価の推移を見ていると、世の中に絶対安全なものなど決して存在しないことがよく分かるというものです。そして、安定よりリスクを取りに行くことを選ぶ企業や人しか成功をつかむことはできないこともよく分かります。
安定や安全を求め、資金を関電やパナソニックの株につぎ込んだ関西の小金持ちは、リスクを取ってアップルの株を買わなかったことで大変な損失を被ったのです。
そういう意味でアップルには、いぢめやリストラしか能がない万年内向きのへっぽこ日本企業に比べれば、まだまだ果敢にリスクを取りに行く風土があります。株を買うなら今のうちかもしれませんよ…。(岡田敏一)