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経営陣、賃上げに慎重姿勢 アベノミクス期待も“厚い壁”

ニュースカテゴリ:企業の経営

経営陣、賃上げに慎重姿勢 アベノミクス期待も“厚い壁”

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主要国の賃金上昇率  「給料増えないのに、出費は増える一方…」

 安倍晋三首相が企業に異例の賃上げ要請を行い、今春闘では賃上げへの期待が高まっている。安倍政権の経済政策「アベノミクス」による円高の是正で企業収益の好転も見込まれ、グループ社員の年収引き上げを決めたローソンなど首相の要請に応える企業も出始めた。ただ、こうした企業はまだ一部。首相の要請に一定の理解を示しながらも、経営者はなお賃上げに慎重な姿勢を崩していない。

 「給料は増えないのに、出費は増える一方で…」。都内の製造会社で販売業務を担う女性(38)は深いため息をつく。戸建て住宅で両親と同居しながら高校1年の長男(16)と中学2年の長女(14)を育てるシングルマザーだ。

 毎月、平均25万円ほどの手取り収入があるが、支出で大きなウエートを占めるのが育ち盛りの子供たちの教育費。約6万円が塾代に消えるほか、定期的に特別講習代や部活動の遠征費なども必要になる。「残業がなければ、月給は20万円近くまで下がることもある。生活はギリギリ」と女性は打ち明ける。

 ピークから5.7万円減

 長引くデフレと激しい国際競争を背景に、日本の賃金は平成9年をピークに下落傾向が続く。厚生労働省の毎月勤労統計調査(速報)によると、ボーナスなど全ての給与を合わせた24年の現金給与総額(月平均)は前年比0・6%減の31万4236円。現在の調査方法に変更した2年以降で最低。9年に比べ約5万7千円減少した。

 給与総額が過去最低に落ち込んだのは、世界経済の減速や円高に伴い、製造業を中心に一時金(ボーナス)が減少したことが主因だ。かつての春闘では、物価上昇に合わせて賃金体系を一律に引き上げるベースアップ(ベア)が最大の争点だったが、デフレの定着とともに、業績の変動で調整しやすい一時金が“主戦場”となった。

 25年3月期に本業のもうけである営業利益で1兆1500億円を稼ぐと予想するトヨタ自動車でも、それは変わらない。トヨタ自動車労働組合は今春闘で205万円(組合員平均)の一時金を要求、5年ぶりに200万円を超えたが、ベアに相当する賃金改善要求は4年連続で見送った。

 その理由について、トヨタ労組の鶴岡光行執行委員長は「取り巻く環境に円安のほかに好転した材料はない」と説明する。円高の是正についても、自動車メーカーなどの労組で組織する自動車総連は「この為替水準では国内雇用を死守できるレベルにはない」と指摘。雇用を守るためには、トヨタの労組でさえ、固定費アップにつながるベアを簡単には要求できない。

 「ボーナスは2千円」

 業績が悪い企業であれば、状況はさらに苦しい。

 「この先、給料が上がる見込みはほとんどない。昨冬、5年ぶりに出たボーナスは1人2千円。税金を引いた1500円くらいが振り込まれていて、悲しいやらむなしいやら…」。東京都葛飾区の運送会社に勤める男性(45)はため息をつく。

 男性は食料や飲料を小売店に配送する仕事に就いている。夜勤シフトに入ることが多く、夜勤手当や残業代もあり給料は手取りで月40万円程度ある。だが「以前は50万円くらいもらっていたんだけど…」と話すように、住宅ローンと3人の子供を抱え暮らしが楽になる兆しはない。

 不振が続く家電メーカーの労組も今春闘では厳しい交渉を迫られている。

 シャープは希望退職を募集し、昨年12月に2960人が退社。パイオニアも6月末までに国内で約800人の人員削減に踏み切る。電機メーカーの労組でつくる電機連合は、今春闘の統一要求基準について、年間の一時金を4カ月以上としているが、両社労組は「とても賃上げを要求できる状況にはない」(シャープ労組幹部)と統一交渉からの離脱を決めた。

 日本の賃金が上がらない背景には非正規社員の増加もある。24年平均の非正規社員は1813万人。全体の35・2%と過去最高となったが、平均年収は200万円強だ。連合の古賀伸明会長はこうした現状を「異常」と指摘。今春闘では「パートなど非正規社員も含めた給与総額の1%増」を目標に掲げている。

 ただ、経団連は「ベアを実施する余地はなく、定期昇給の実施が主な論点になる」と、賃上げどころか定昇凍結もあり得るとの立場だ。明確に業績が回復していない企業では「グローバルに戦う中で、雇用とどう両立させるかを考えなくてはいけない」(日立製作所の御手洗尚樹常務)と強調、厳しい交渉姿勢を変えていない。

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