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アベノミクスの副作用 雇用安定・賃上げへ成長戦略急務

ニュースカテゴリ:政策・市況の国内

アベノミクスの副作用 雇用安定・賃上げへ成長戦略急務

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 1月の全国消費者物価指数でも、物価の下げ止まりは確認されなかった。家計の所得が改善しない限り、少しでもお金を節約しようという「低価格志向」は解消しない。しかも、アベノミクスに伴う円安の進行は、燃料や原材料の輸入価格の上昇という副作用を招き、生活必需品の値上げ圧力を強めている。このままでは、物価上昇が消費拡大の芽を摘み、政府が描くデフレ脱却のシナリオを崩しかねない。家計の所得増加と消費喚起を同時に進める政策が急務だ。

 「重油価格上昇で骨材やセメントなどで値上げの動きが出ている」。セメント協会の氣仙伊作・流通委員会委員長(宇部三菱セメント副社長)は警戒感を示す。

 アベノミクスに伴う円安で輸入価格が上昇し始め、1月の輸入物価指数は前年同月比10.8%上昇した。素材産業では、原材料や燃料のコストの負担増に耐えきれず、値上げを目指す動きも広がっている。

 日本製紙クレシアはティッシュ紙やトイレ紙の出荷価格を4月から15%以上引き上げる。帝人は衣料品に使われるポリエステル繊維の卸価格を2月から5~10%値上げするほか、東レもポリエステル繊維の卸価格を3月から約10%引き上げる。

 食料品にも値上げの兆しがある。4月から国が買い入れた輸入小麦を製粉会社などに売り渡す価格が平均9.7%上がるのに伴い、製粉各社は価格を上げる見通し。パンや麺などに影響が広がる可能性がある。

 円安で上昇したコストを転嫁する形で最終製品の価格が上昇すれば、物価が上がり、デフレ脱却の糸口が見えるという楽観的な見方もある。しかし、賃金が伸び悩む中では消費者は財布のひもを緩めない。個人消費に火が付き、景気を上向かせる期待は乏しい。

 家計の給与が増えて、生活費に余裕が出れば消費が増える。これが、企業収益の拡大を実現し、その結果、雇用と賃金の改善をもたらす。政府が描くのは、家計と企業の懐を同時に潤す好循環のシナリオだ。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「企業収益の拡大につながる成長分野を育てることが雇用と賃金を増やす最善の道」と指摘している。

 円安影響で値上げされる品目

    品目     値上げ幅   時期      用途         表明主体

 輸入小麦     平均9.7% 4月    小麦粉         国

 家庭紙      15%以上  4月    トイレ紙、ティッシュ紙 日本製紙クレシア

 ポリエステル繊維 5~10%  2月、3月 衣料品         東レ、帝人

 ポリエチレン   6%程度   3月下旬  レジ袋、容器      日本ポリエチレン

 回復基調は明確

 □明治安田生命保険の小玉祐一・チーフエコノミスト

 有効求人倍率の状況などをみても雇用の回復基調は明確だ。現状では非製造業の求人が先行している。製造業は、昨夏以降、輸出関連の落ち込みが響いているが、円安に加え、中国向けや米国向けの輸出が持ち直してくることから、今後は雇用環境は緩やかながら回復していき、所得増につながっていく。

 実体への波及まだ

 □信金中央金庫の角田匠・上席主任研究員

 消費者物価指数の下落は予想通りだ。テレビの価格下落が影響している。株価が上昇するなど、景気回復の期待は高まっているが、実体経済での波及はまだだ。物価が安定的に上昇するまで、流通各社は値段を下げて購買意欲を刺激するしかない。所得の上昇が不可欠だが、それには1~2年かかる。

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