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ゲーム性と中毒性…顔写真だけで恋人選び 若者に人気の出会い系アプリ
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アメリカで急激に人気を集める出会い系アプリがある。火口を意味する「Tinder (ティンダー)」がそれだ。20代から30代前半の若者の間で支持を集めるこのサービスを、既婚の私も試してみることにした。もちろん、リサーチの目的でだが、その結果には少し当惑した。
スマートフォン向けのこのアプリは、まず利用者の衛星利用測位システム(GPS)を使って位置情報をリアルタイムで取得し、同じ地域でティンダーを利用している人と利用者を結び付ける。利用者は、アプリを開くと、周辺で出会いを求めている人の顔写真をスクロールして閲覧することができる。
閲覧するだけではなく、顔写真のみを判断材料に、その人の見た目が気に入らなければ左に、気に入れば右に指をすべらせスワイプする。もし、あなたが右に振り分けた誰かが、同じようにあなたの写真も気にいれば、その時アプリは出会いのきっかけを提供する。アプリ内のプライベートなチャット機能で2人が会話を始められるという仕組みだ。
このアプリは使っているとあたかもカードゲームをプレイしているかのような感覚に陥るが、それは製作側の意図的な戦略だ。ティンダーは出会い系のサービスを細かく分解して、その中の最もシンプルな要素、要するに「見た目」に絞り込んだサービスを展開している。
また、無限に顔写真が登場してスワイプし続けられるような作りになっているのも特徴で、1回のセッションで100人以上のプロフィル写真に目と指を通す人もいるようだ。長い時間顔写真カードをめくり続けても、出会いの可能性が尽きないところに、ゲーム性と中毒性がある。
ティンダーでは、利用者がこのサービスから何かを得るためには、利用者自身がその基盤を作らなければならない。つまり、出会いが生まれるためには両者の明確な意思表示、オプトインが必要であるため、サービスからの受益のためにはいつも主体的にプロフィル写真の評価をしていなければならない。
両者のオプトインを必要とする構造というのは、つまりもし近くの女性が私の写真を気に入ったとしても、私の側にはそれについて何の表示もされないということだ。その女性は、単にスワイプを待つ多くのプロフィル写真の1枚にすぎない。好意の矢印が相互に向けられたときだけ、その女性と私の間に結び付きが生まれる。
あなたがもしプロフィル写真を気に入っても、その人が将来自分の写真に目をとめてくれるかどうかまったく予測がつかない。仮にひとめぼれをした相手が自分のことを気に入ってくれるとしても、それが2時間後なのか、5日後なのか、数週間先の話なのかは分からないのだ。男性も女性もここに魅力を感じて、同程度にアプリに時間を費やすようになる。
女性が特にティンダーを好むのは、出会い系のサービスによくある、1日何十通ものさまざまな男性からのメッセージに悩まされなくても済むからだ。巷で出会いや見合いの機会をつくるサービスのほとんどにおいて、男性会員が女性会員の数を上回っている。
この不均衡が、入会直後の女性に襲いかかり、多くの女性がメッセージの数に圧倒されて使うのをやめてしまう。ティンダーでは、待ち行列の仕組みによってこれが起こらない。男性も女性も、写真を眺めて投票すればいいだけだ。
好きも嫌いも、性格やプロフィルデータによってではなく、写真一つで決まってしまうため、どの写真を使うかがティンダーでのあなたの成功の鍵を握る。アメリカには、競争力を高めるために画像修正アプリを利用している人もいるようだ。
ティンダーの利用には懸念もある。例えば、このアプリが利用者のフェイスブック上のデータへアクセスし、何に「いいね!」をしたか、年齢、故郷、職業など言うならば個人宛てのメッセージを除くほとんどすべての情報を取り込んで利用しているところだ。一度データが渡ってしまえば、二度と取り戻せないため、こういうことをするアプリに対して私はいつも神経質になってしまう。明確な収益化モデルが定まっていないアプリの場合は尚更だ。
データの多くは、ティンダーがあなたに合った運命の人を探すために使われる。例えば、あなたと誰かが共通の関心や趣味、または共通の友人を持っているか、ティンダーはすべてお見通しだ。これも、私にとっては心配の種の一つだ。
試用して、少し驚いたのは日本にいる女性の友人が結構このアプリを使っていることだ。ティンダーの成功の兆しといえるかもしれないが、ティンダーを開いて顔写真が表示されれば、それが知り合いでも必ず右か左に振り分けなければならないため、私はいささか居心地の悪い状況に置かれた。
友人は皆とてもいい人ばかりだが、私が独身だったとして実際に付き合いたい人は多くはない。とはいえ、私はティンダーのターゲットとする顧客ではない。もし、私が20歳の大学生であれば、同じ大学でアプリを使っている誰かと付き合う良い機会になったことだろう。恥ずかしい思いをしなくても、お互いに好意があることを堂々と表明できるからだ。実際にティンダーの最近の人気は大学のキャンパスで広がっている。
サービスの収益力のなさを懸念する人もいるが、私はそこを気にする必要はないと思う。モバイルアプリの市場では、収益を上げることそのものよりも、アクティブなユーザー基盤を作り上げることの方が難しいのが現実だ。
その最も高い壁を乗り越えたティンダーにとって収益化は容易なはずだ。残念だが、妻は、私がこの事業の行く末を見極められるほど長くは使わせてくれないだろう。(文:イジョビ・ヌウェア 訳:堀まどか)
イジョビ・ヌウェア ニューヨーク生まれ。全米最大の無線LAN共有サービスFON創業者のひとり。ビジネスウイーク誌により「25人のトップ起業家」に選出される。2008年に日本でオンラインマーケティングに特化したランドラッシュグループ株式会社を設立し、現最高経営責任者(CEO)。