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「募金」呼びかけへの波紋 表裏一体で広がる“共感”と“炎上”
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【ネットろんだん】
「父の命を救うために皆さんの力をかしてください」。今月12日、ある俳優がネットで行った募金の呼びかけが波紋を広げた。山で遭難した父親を気遣う声と、「虫がよすぎる」という批判。「共感」と「批判・炎上」が表裏一体をなす様相は、「クラウドファンディング」という名で定着しつつあるネット募金の仕組みにおいても無縁ではない。
「親父(おやじ)が山で遭難した…」「親父のために、俺がヒーローであり続けるにはどうしたらよいか」
特撮ヒーロードラマに出演経験のある男性俳優(26)は11日、父親が新潟県で登山中に遭難したことをツイッターで告白。12日には民間捜索にかかる費用を具体的に記述した上で、募金を呼びかけた。
男性のツイッターやブログのコメント欄には、ファンを中心に協力申し出や気遣う書き込みが相次いだ。ただ、呼びかけが拡散されるにつれて「虫がよすぎるのでは」「ヒーローなら逆にがっかり」(匿名掲示板)といった批判もエスカレート。男性はその後、「過度の集金を防ぐため」として募金を停止。この経緯は本紙をはじめニュースとして報じられるところとなった。
これは個人が単独で募金を呼びかけたケースだが、少額でも多くの人々から寄付を集められる資金調達の手法はクラウドファンディングと呼ばれ、ネット決済システムを備えた仲介サービスを通じて広がっている。
日本でも東日本大震災以降、利用者は増加傾向にある。被災施設再建や復興イベント開催といった支援活動への利用が活発化し、震災で公立図書館が全壊した岩手県陸前高田市での「図書室」建設計画には、有志800人以上から800万円を超える資金が集まった。
また、映画や音楽、アートなどの製作費を募って作品が公開されたり、伝統文化保存活動などでも活用され、ベンチャー企業の資金調達法としても注目が集まっている。
平成23年からクラウドファンディングサービス「レディーフォー」を展開する企業、オーマによると、支援者数は昨年から今年にかけて約4倍に増加。「支援者一人一人の平均支援額は1万円弱。善意の連鎖が大きくなっている」と強調する。
一方、冒頭の事例と同様、協力の呼びかけに賛否両論が分かれるケースも出ている。
昨年春、学費支払いに困窮している学生らへの支援を目的に設立されたサービスでは、支援を求めた学生が既に退学扱いになっていたことなどが事後に判明。運営側の説明不足に「詐欺まがい」などと批判が集中し、同サービスはその後、休止したままだ。
寄付をめぐる“炎上騒ぎ”が起きるたびに、ネットでは「日本には寄付文化が根付いていない」といった声も上がる。NPO法人日本ファンドレイジング協会によると、日本の寄付市場規模は年間推計1兆円で、米国の20分の1程度。同協会は「ネットで寄付が身近になり、日本でものびしろはある」と期待し、「寄付は善意の発露だけでなく、継続的に応援し行動することの入り口。利用者と支援者双方が、寄付行為自体をよく理解することが必要」と話す。
裏切られた善意は炎上という“倍返し”の温床となる。だが必要なのは感情的なエスカレートではなく、寄付対象を冷静に見つめ、共に歩もうとする姿勢なのだろう。(三)
目的や使途をネットで公開し、資金提供を募る仕組み。欧米では日本に先駆けて活発化しており、金融庁によると、昨年の世界全体での資金調達額(推計)は約28億ドルで前年の2倍近くに増加している。支援者が見返りを求めない「寄付型」や商品などの見返りがある「購入型」、金銭的な対価を受け取れる「投資型」などの多岐にわたるサービスが展開されている。