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ブラジル富裕・中間層狙う日本企業 W杯など大型イベントめじろ押し
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ブラジルのGDP成長率
今年6月のFIFAワールドカップ(W杯)や2016年のリオデジャネイロ五輪など、大型イベントがめじろ押しのブラジル。同国のほか、ロシア、インド、中国のBRICSと呼ばれる新興国の中でも、GDP(国民総生産)の約6割を占める個人消費は、富裕層や中間層の急増で力強い。日本企業は綿密な市場調査で販路を広げ、成長の取り込みを狙う。
サンパウロ市街から車で約1時間のイトゥー市。W杯の日本代表キャンプ地で知られる。2月末、ブラジルキリンの工場で満を持しての「一番搾り」の生産が始まり、今月中旬から順次店頭や飲食店にお目見えしている。一番搾りは、ブラジル人の富裕層向けの戦略商品だ。飲食店での販売価格は8~10レアル(約344~430円)と、店頭価格の数倍高い。
健康志向で日本食のおしゃれなレストランは若者で夜遅くまでにぎわう。「和食とセットにした『一番搾り』や健康飲料を口コミでいかにカッコ良くアピールできるか」(小林信弥・ブラジルキリン取締役)が工夫のしどころだ。
世界第3位のビール市場を開拓しようと、キリンホールディングスがビール2位で飲料大手の旧スキンカリオールを買収して2年あまり。強みの北東部で、昨年はライバルに反撃されたが価格対抗策も奏功し、今年に入り快進撃が復活した。現地スタッフが経営を主導し、日本人役員が目配りするという手法も効果を出しているという。
5月以降、サンパウロなどに食物繊維入りコーラ「FIBZ」を投入する。日本で培った食物繊維と糖質ゼロ技術を、現地の嗜好(しこう)に合わせて開発した初のカスタマイズ商品。事前調査で食物繊維の関心が高いとのニーズを得ており、昨秋にサンタカタリナ州で先行販売して手応えを得た。
ブラジル政府機関は、自国民を世帯収入によってA~E層まで5分類している。「クラスA、B」と呼ばれる富裕層はこの10年で2倍の2700万人に増え、富裕層だけしかいない別世界のような高級モール建設も相次ぐ。
月収約8万~35万円の「クラスC」と呼ばれる中間層は、この10年で4000万人に増え、四輪車やパソコンなどの耐久消費財の需要が伸びている。
「成長至上主義からインフレ抑制に転換し、経済は当面低成長が続くが、個人消費の魅力は大きい」とジェトロの石田靖博サンパウロ事務所長は分析する。前政権とルセフ政権の社会政策が奏功し、景気が安定しているだけでなく、150万人の日系人社会による親日ムードも追い風だ。
街やオフィスのいたるところにコーヒースタンドがあり、デミタスカップで砂糖入りのコーヒーを飲み商談や雑談に興じるのがブラジル流。この中間層を取り込もうと狙うのが、三井物産子会社でコーヒー販売の三井アリメントスだ。昨年はプレミアムコーヒーが焙煎組合の品評会で1位の名誉にも輝いた。スーパーの店頭で試飲しながらの対面販売で、コーヒー販売は右肩上がりだ。
今後は人口増が予想される北部の拡販やサンパウロでは高級路線も追加し、地域別のきめ細かな販売戦略に乗り出す。同社の山村嘉宏社長は「17年に売上げを12年の2倍に引き上げたい」と意気込む。
「自動車の次にお金を使うのは教育」。ブラジル三井物産で消費者ビジネスを開拓する稲田大輔副部長は、家庭学習やIT(情報技術)を使った教育産業に照準を合わせ、日本や現地のパートナー探しに奔走する。教育市場は世界で6位と仏と同水準だけに期待は大きい。
ブラジルの13年の自動車販売台数は自動車購入への減税効果がなくなり、前年比0.9%減の376万台と10年ぶりに微減に転じたが、生産台数は9.9%増と活況だ。国内産業保護を重視する同国政府は12年に現地生産を促す新自動車政策を導入。日産自動車やホンダが相次ぎ新工場を、トヨタ自動車もエンジン工場をそれぞれ計画している。
サンパウロでは100円ショップ「ダイソー」や牛丼「すき家」も店舗を拡大中だ。地方でも、ブラジルキリンが南東部の経営基盤が強みとなっているほか、インスタントラーメン販売の日清味の素アリメントスは中間層が拡大するペルナンブコ州で工場を稼働させた。
ただ、「複雑な税制体系や労働者寄りの労働法制などの非関税障壁」(二宮康史・アジア経済研究所副主任研究員)が中堅企業の進出に立ちはだかっており、構造的な問題の解消に向けた両国政府の取り組みが問われている。(上原すみ子)