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消える関西名物「500円タクシー」 利用者離れ懸念する運転手たち

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消える関西名物「500円タクシー」 利用者離れ懸念する運転手たち

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 消費税が5%から8%に上がり、家計負担が増える4月。このタイミングに、タクシー運賃が「日本一安い」とされる大阪でも、5千円を超える運賃を半額にする割引サービスが大幅縮小され、「500円タクシー」も姿を消す見通しとなった。法改正により、国が定める公定運賃幅を下回るタクシーは走れなくなるためだ。名目は運転手の待遇改善だが、長引く不況でタクシー利用者の減少が続く中、運転手からは利用者離れを懸念する声もあがっている。

 公定運賃より安い500円タクシーは「消滅」

 「お役人さんの考えていることはよう分からん」

 大阪市内の大手タクシー会社に勤める男性運転手は憤りを隠さない。怒りの矛先は、タクシーの「規制強化」に踏み切った国土交通省だ。

 「強化」は法改正によるものだ。昨年11月、タクシーの強制減車や格安運賃の見直しを盛り込んだ「特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法等の一部を改正する法律」という法律が可決、成立し、今年1月末から施行された。

 改正法では東京23区のほか、大阪市や札幌、福岡などの中核都市のタクシーを対象に、国が運賃の上限と下限を定め、下限より安い運賃のタクシーは走れなくなる。4月の消費税増税後の大阪市の初乗り下限運賃は660円となるため、500円タクシーは姿を消すことになる。

 さらに、国交相が「特定地域」に指定した過当競争地域では、タクシー会社や首長らで構成する「協議会」がタクシーの営業台数を削減させたり、新規参入や増車を禁止できる。いわば、国が運賃や台数に縛りがかけられるようになったのだ。

 運賃上がれば収入上がる、は「幻想」?

 タクシー規制をめぐっては小泉政権時代、「構造改革」の象徴として平成14年に参入規制や台数制限が撤廃された。結果、利用客が多い大都市圏を中心に、新規参入や既存のタクシー会社による増車が相次ぎ、台数が大幅に増加。乗務員一人当たりの収入は減少し、「行き過ぎた規制緩和」と批判の声もあがった。

 法改正は、その批判に応えたもので、「運転手の賃金の低さや過労による事故防止を図る」-というのが国交省側の言い分だ。実際、運転手の取り分は営業収入の6割前後で、年収は300万円程度と他の業種と比べても低いとされている。だが、背景には「規制緩和が行き過ぎた」として、国が“巻き戻し”に動いたこともある。

 「日本一安い」とされる大阪のタクシー。長距離割引サービスは、初乗り500円の「ワンコインタクシー」に客を奪われた対抗策として、14年に関西ハイタク事業協同組合(関協タクシー)が始め、他社が追随。大阪以外の他の地域にも広まったとされる。

 割引を導入すると、最初は確かに遠距離客が増えるなど、利用客が増えて大成功となったが、普及後は業界全体の消耗につながった。業界内には今回の改正法施行を機に、サービスの縮小や廃止を望む声がある。

 一方、「利用者に百害あって一利なし」(エムケイの青木信明社長)と反発も強い。青木社長は「供給や価格決定など、事業者が判断すべき領域に踏み込むべきではない」と指摘。公定運賃は「営業の自由や財産権などを不倒に侵害し、憲法違反の疑いがある」「事業者間の健全な競争まで抑制する」と主張、「運賃値上げをすれば賃金があがるというのは幻想で、それは経営者の仕事」と明言している。

 結局、どこがいくらになる?

 5千円超半額のサービスは、大阪タクシー協会(大阪市)に加盟する160社のうち約140社や非加盟の約40社が導入しており、うち約80社が見直す方針。2月下旬から順次、近畿運輸局に認可を申請したが、いったん申請した約100社のうち約20社が3月末になって一転申請を取り下げるなど、状況は流動的だ。

 見直し後は7千円超を3割引きにする会社が多く、「9千円超1割引」もある。関西中央交通など約40社は、まだ態度を固めていない。各社は4月1日から変更したい考えだが、審査の状況によってはずれ込む可能性もある。

 東京では9千円超1割引き、名古屋は5千円超1割引きのサービスが多いが、いずれも見直しの動きはない。京都ではエムケイが5千円超を半額にしており、今後も継続する方針だ。

 だが、大阪の各社の見直しは消費増税分の転嫁に伴う初乗り運賃の値上げと重なるだけに、格安運賃や長距離割引の縮小は利用者のタクシー離れを加速させる恐れもある。“上客”である長距離利用者の減少は、運転手に大きな痛手だ。大阪市のタクシー会社に勤める別の男性運転手は「お客さんが減って売り上げが下がったら、肝心の待遇改善どころやない。元も子もなくなる」と嘆く。

 そもそも、格安運賃や長距離割引は規制緩和による競争激化から生まれた。利用者にとっては使い勝手が向上したが、今度は“お上の都合”でそれらがなくなることになる。「利用者不在」の政策は、タクシー利用者の減少と運転手の待遇悪化という最悪の結果を招く危険性もはらんでいる。(橋本亮)

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