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三菱重工、生みの苦しみ MRJ延期、客船建造で特損…問われる企業力
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三菱重工業の船舶・海洋事業の業績 三菱重工業が生みの苦しみに直面している。船舶・海洋事業の復活をかけた客船建造で巨額の特別損失を計上し、戦略修正を迫られた。昨年は国産初の小型ジェット旅客機「三菱リージョナルジェット(MRJ)」の納入延期を発表。悲願の売上高5兆円に向け、将来の成長を担う注力事業を軌道に乗せることができるか、“巨艦”がもがいている。
作業中に火災事故が発生した客船「ダイヤモンド・プリンセス」の引き渡しから約10年。三菱重工が社運をかけて臨んだプロジェクトが思わぬ誤算に直面している。
「(客船建造が)技術的にできないということではなく、お客さまとの仕様の確定に時間を要している。10年ぶりということもあるが、プロトタイプ(1番船)であることが大きい」
3月24日、東京・品川の本社で開かれた記者会見。船舶などを担当する交通・輸送ドメイン長の鯨井洋一副社長(当時は常務)はこう説明した。
2011年11月に米カーニバル傘下の伊クルーズ客船会社コスタ・グループから受注した大型客船2隻の設計作業に大幅な遅延が生じ、約600億円の特損計上を迫られたからだ。
客船は船体に加え、客室などホテル部分やプールなどのレジャー部分からなる。空調や壁などの内装、家具などの仕様を顧客と擦り合わせるのに手間取り資材や設計などのコストが想定を大きく上回った。今回受注したのが、量産の元となるプロトタイプだったことで、顧客の要求水準が高くなったという。
韓国・中国メーカーの台頭で造船の事業環境が悪化する中、三菱重工は生き残りに向け、製造に技術力が必要な客船やLNG(液化天然ガス)運搬船、資源調査船など高付加価値の船種に集中する戦略を取ってきた。
一般的にタンカーなどの商船は1隻数十億円程度だが、LNG船は200億円、客船は500億円以上とされる。一方で、部品点数はタンカーの約25万点に対し、客船は約1200万点と多く、高い知見やマネジメント能力が不可欠となる。
コスタ・グループからの受注を決めた理由について、野島龍彦常務は「客船は景気変動の影響を受けにくく、中韓メーカーと差別化できる。世界最大の船主のプロトタイプを作ることで今後の事業拡大が見込める」と強調する。
ただ、現実は甘くない。三菱重工が狙う付加価値の高い客船や富裕層向けクルーザーなどはドイツやイタリア、フランスなど欧州勢が強い。今回、三菱重工は受注額を公表していないが、特損が約600億円というのは「利益が吹き飛んでしまう水準」(業界関係者)だ。
船舶・海洋事業では、ノルウェーの資源探査会社から受注した最新鋭の海底資源探査船も建造が難航。13年度は4~12月期で69億円の営業赤字になっており、目標とする40億円の黒字達成は困難な状況だ。
鯨井副社長は「(客船を建造する)長崎造船所はこれだけ大きな損失を出したので、いろんな手を打っていかないといけない。客船も先の受注計画を話せる段階にない」と戦略修正を示唆する。
一方、昨年8月には子会社が開発を進めるMRJ初号機の納入を1年超延期すると発表。MRJは三菱重工にとって、欧米勢が幅をきかせてきた航空機市場で完成機メーカーとして飛躍する鍵を握る。だが延期は3度目。これ以上の遅れは事業の継続性に影響を与えかねない。
宮永俊一社長は売上高5兆円を掲げ、競争力のある事業に経営資源を集中。日立製作所と火力発電システム事業の統合などに踏み切る一方、複数の事業本部を「交通・輸送」「エネルギー・環境」などのドメイン(領域)に再編し、構造改革を推し進めている。
客船建造では巨額損失を計上することになったが、ドメイン制導入で造船担当者だけでなくプロジェクトマネジメントの経験豊富な役員も参加。傷口を広げず、迅速にカバーする態勢を整えることができたという。
成長には痛みが伴う。三菱重工の挑戦の真価が問われるのはこれからだ。(田村龍彦)