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【ビジネスのつぼ】ビール離れ進む若者から支持 ニーズ追求したサッポロ「ホワイトベルグ」
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「サッポロホワイトベルグ」の開発責任者の後藤正明さん(左)と伝田法子さん ■「ながら飲み」若者好みの華やかな香り
ビールの需要が低迷する中、サッポロビールの第3のビール「サッポロ ホワイトベルグ」が、存在感を示している。ベルギー産麦芽に加え、オレンジピール、コリアンダーシードなどのスパイスを使い、ベルギーのホワイトビールのような華やかな香りとさわやかな味わいとなった。「自宅で映画を見ながらゆっくり飲む」など、時間をかけた“ながら飲み”でも、苦みが強まらずおいしく味わえるとあって、昨年5月の発売以降、ビール離れが進むとされる若者たちの心をがっちり捉えることに成功した。
◆日本の市場変えたい
「青臭いが、日本のビール市場を変えたいという思いだった」
サッポロビールの新価値開発部の後藤正明マネージャーは、こう振り返る。開発に着手したのは今から3、4年前。2014年5月に第3のビールを発売することが決まったことをきっかけに、プロジェクトが動き出し、ベルギービールに似たビール類の開発が本格化。同時に社内競争が始まった瞬間でもあった。
後藤さんは「ビールは奥が深い飲み物なのに、日本ではすっきりとした味わいが特徴の『ラガー』タイプがほとんど。チーズに例えれば、プロセスチーズしかないようなもの。食事に合わせてチーズを変えるように、ビールだっていろんな種類を楽しんでいい。きっと流行する」との信念を持って開発に挑んだ。
市場調査を繰り返すと、20、30代は「飲みやすさ」「香り」への愛着が強いことが判明。「コク」と「キレ」を求める40、50代とはニーズが異なることが分かったという。
冷やしたラガービールは、仕事帰りやお風呂上りに爽快にゴクっと飲むのがおいしいとされるが、時間がたち、ぬるくなると苦みが増してしまう。若者がビールから離れている要因の一つにもなっていた。
一方、複雑な香りと深いコク、フルーティーな味が特徴の「エール」タイプのホワイトベルグは、時間がたっても苦みは増えず、香りが楽しめる。後藤さんは、自宅で映画をみながら、パソコンをしながらの「ながら飲み」をする若者にニーズがあると確信した。
また、後藤さんが仕事帰りに立ち寄る飲食店でも、ベルギービールが流行していた。20、30代の男女がビールを飲む姿をよく見かけたという。全国各地で盛況の「ビアフェス」に若者が来場していたことも、ホワイトベルグの発売への決め手となった。
◆深く狭く愛される商品
社内では「業界内での流行ではないか。もっと検証が必要」との慎重論も出た。しかし、後藤さんは「会社の『広く浅く愛される商品』よりも、『深く狭く愛される商品』との方針に合致している。オンリーワンを積み重ね、ナンバーワンへ、を掲げるサッポロビールのビジョンそのものだ」などと何度も説明。最終の社内コンペでも、役員から「いろいろ思うことはあるが、若年層にとって一番受け入れられる味ならば」と評価され、商品化を勝ち取った。「やっと、客に商品を問える。チャレンジができる」と胸をなでおろした瞬間でもあった。
ただ、味の調整は難航を極めた。例えば、開発者と後藤さんの「華やかな香り」の定義が異なるなど、人によって味覚が違った。そこで、100種類のベルギービールを飲み比べ、味の「共通言語」を確認する作業を繰り返した。
また、オレンジピールとともに、今回の味の決め手となるコリアンダーシードは、増やしすぎると香りが強くなりすぎ、減らし過ぎると特徴のない味になる。しかも、「産地によって味が異なる。安定供給でき、しかも味が一定になる調達先」(後藤さん)を探す必要があった。何度も試行錯誤を繰り返しながら、ようやく調達先の絞り込みに成功したという。
ようやく完成したホワイトベルグは、狙い通り20、30代からの支持を集めた。コンビニエンスストアが取り込みたい女性、若年層と合致したこともあって、定番商品ではないビールは通常、発売後6~8週間が過ぎれば撤去されるが、「再び棚に並ぶという“異例”の快挙を達成した」(ブランド戦略部の伝田法子主任)。
後藤さんは「まだ新ジャンルの点ができたばかり。これを面で広げていろんな種類のビールがあるんだということを知ってもらいたい」と目を輝かせる。ビール業界では、少量生産で個性的な味が特徴の「クラフトビール」が注目されており、サッポロビールも本格展開をもくろむ。ビール離れの若者の心をつかむ挑戦は、始まったばかりだ。(飯田耕司)