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重病シャープ…高橋流の正念場 危機感薄く「やる気のない社員」も

ニュースカテゴリ:企業の電機

重病シャープ…高橋流の正念場 危機感薄く「やる気のない社員」も

更新

記者会見に臨むシャープの高橋興三社長=2月3日、東京都港区  経営再建中のシャープの企業風土改革が、業績悪化のため岐路に立たされている。高橋興三社長は、経営危機を招いた上意下達の強すぎた社風を「けったいな文化」として決別を宣言。指示待ちでなく、自分で判断して挑戦する社員を増やすことに注力してきたが、あくまで漢方薬的な処方に「やる気になる社員と従来の指示待ち社員の温度差が大きい」(関係者)。主力取引銀行の資本支援を前提に、外科手術といえる3千人規模の希望退職を募集するなどを迫られるいま、強権発動という即効薬を求められる場面が増えそうだ。(松岡達郎)

 できること

 「3月末まで1台でも多く売りさばけ…」

 業績の変調が社内で伝わった昨年末から、シャープの国内営業部隊が奮起し、3月末まで同社のイオンで空気を除菌する「プラズマクラスターイオン発生機」搭載商品の100万台販売を目指すキャンペーンを展開した。

 担当先の家電量販店などに足しげく通う「どぶ板営業」で攻勢をかける取り組みだが、平成27年3月期のぎりぎりまで少しでも赤字幅を減らすため自分のやれることを考えた結果だ。

 国内外のライバルとの競争激化と価格競争の影響で苦戦する液晶事業は、27年3月期の営業利益の業績予想を550億円から400億円に下方修正。他の赤字事業をカバーしきれなくなったとはいえ、鉛筆やボールペンで文字を入力できる液晶パネルを発表するなど技術開発とともに、新規顧客の開拓などで巻き返す姿勢は崩していないという。

 その一方で危機感が薄い幹部や社員もまだ少なくなく、社内全体で共有できていないのが実情という。

 赤字に苦しむテレビ事業は、画質などの機能で差別化できなくなり、価格勝負になってからも、ビジネスモデルの転換ができていない。同じく赤字の太陽光パネル事業も再生可能エネルギーによる電力の買い取り制度に依存したまま。買い取り価格の引き下げによる需要減と、海外メーカーの低価格品の攻勢にさらされる構図が続く。リストラには多額の費用がかかるため抜本的な改革に踏み切れなかったという事情もある。「動きたくても動けない。または動き方が分からない人も少なくない」(関係者)という。

 高橋流

 高橋社長は25年6月の就任以降、現場の声を上層部に直言できる企業風土改革「かえる運動」に取り組んできた。背景には経営トップの判断に意見できない雰囲気が経営危機を招いた液晶事業への過剰投資につながったという反省がある。

 上位下達の強すぎた過去の社風を「けったいな文化を変える」として決別を宣言。社内では互いを役職ではなく「○○さん」と呼称する運動を本格化させ、風通しの良い組織づくりに腐心してきた。

 同時に、社員のチャレンジ精神を喚起する意識改革にもこだわった。会見では「社員が自分で判断して自分でチャレンジし、上からの指示を待たない。そういう企業風土に変えたい」と強調し、人事評価制度も減点主義から加点主義に転換した。

 さらに昨年10月には社内で公募した新技術やビジネスモデルを推進する「戦略投資枠」を導入し、やる気のある社員のアイデアの商品化や事業化に挑戦するチャンスを与えた。それら意識改革は社内に浸透しつつあり、やる気のある社員は自らのアイデアを実現するため上司にかけあったり、組織間を奔走したりする姿も見られるようになったという。

 ただ、カリスマ経営者の独断専行を否定する高橋社長はあくまで社員の自主性を重んじるため、強制命令はあえて“禁じ手”にしている。このため、業界には「社員をやる気にさせるのが高橋流。ただ、やる気にならない社員は放置」という指摘がある。

 岐路

 治療にたとえると、巨額赤字に沈んだシャープは重病人だった。稼働率の低下と大量の在庫に苦しんでいた堺工場(堺市)を台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業との合弁にして連結対象から外したり、3千人規模の希望退職や海外工場の閉鎖などを進めたりする外科手術の結果、小康状態になっていた。

 その段階で就任した高橋社長は社風と社員の意識改革という漢方薬的な処方で1年目の26年3月期は黒字転換を果たし、中期経営計画の進捗次第では退院も見えてくるところだった。

 ところが昨秋からの業績悪化で再び病気が重くなってしまった。これまでの中期経営計画が頓挫し、主力取引銀行に資本支援を要請を前提とした新しい中期経営計画を練り直すことになった。再び3千人規模の希望退職を募集するなど、さらなる外科手術にも迫られている。

 それでも、高橋社長は100年後にもシャープが存続するため社員の心に訴える漢方薬的な手法を重視し続ける。ただ、社員のそれぞれの自主的な判断に任せる高橋流は一方で、昨秋の業績の変調の兆しや円安進行など経営環境の変化への対応の遅れを招いてきたともいえる。

 中期経営計画の策定を予定する5月を迎えられるかどうか。高橋社長の判断と力量が問われる正念場だ。

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