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洗濯機で子供窒息死…対策悩む家電メーカー 不安の声殺到も決定打なく

ニュースカテゴリ:企業の電機

洗濯機で子供窒息死…対策悩む家電メーカー 不安の声殺到も決定打なく

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ドラム式洗濯乾燥機の開口部に貼られた、子供が中に閉じ込められないよう注意を呼びかけるシール  東京都内で6月、ドラム式洗濯乾燥機に閉じ込められた男児(7)が窒息死する事故が起き、メーカー各社が対応に迫られている。ただ、これまでも「子供が閉じ込められて窒息のおそれあり」と取り扱い説明書などで注意喚起し、解除しないと開閉できないようにする「チャイルドロック」の機能も標準装備している。考えられる限りの安全対策を導入するなかで起きた事故にショックは大きく、各社は「これ以上何をすれば…」と頭を悩ませている。(牛島要平)

 不安広がる

 6月8日未明、ふたが閉まったドラム式洗濯機の中で男児がぐったりしているのを母親が見つけ、病院に運ばれたが、まもなく死亡した。この洗濯機はふたが閉まると、内側からは開けられない構造で、警視庁は男児が誤って中に入り、閉じ込められて呼吸ができなくなった可能性があるとみて調べている。

 「外側から押すなど力が加わらない限り、ふた自体の重みでは閉まらない設計になっており、ふたをどのようにして内側から閉めたのか分からない」

 事故のあった洗濯機を製造したとインターネット上で名指しされているメーカーの担当者は、そう首をかしげる。確かに、他社製も含めて、ほとんどのドラム式洗濯機は外から取っ手を押さなければふたは閉まらない仕組みになっている。

 ただ、同社のある最新機種はふたを勢いよく開け放すとその反動で、手で押さなくてもふたの重みで「パタン」と閉まるケースがあるようだ。実際の事故原因は警視庁が捜査中だが、同社には製品を購入した消費者から「使い続けて大丈夫か」「どう対策すればいいのか」など不安の声が殺到しているという。

 後手に回った対策

 「洗濯機に子供が入り死亡する事故が海外で発生しています。ドラム式洗濯機は、ふたが閉まると中から開けることができない機種があります。子供が簡単に洗濯機を開けたり動かしたりできないようにしましょう」

 消費者庁は昨年8月、このような注意喚起を子供を持つ保護者向けの「子ども安全メールfrom消費者庁」で配信し、ホームページ上でも公開した。きっかけは、韓国や米国などで、子供がドラム式洗濯機に閉じ込められるなどの死亡事故が相次いだことだった。

 各社も以前から事故の危険性に配慮し、取り扱い説明書や本体の添付シールで「子供をドラムの中に入らせない、使わせない。ドラム内に閉じ込められて窒息したり、やけど、感電、けが、おぼれるおそれがあります」などと記載している。

 さらにチャイルドロック機能もほぼ導入している。操作画面などで設定すると解除しない限りふたが開かない仕組みで、使わないときにこまめに設定していれば今回のような事故は防げたはずだった。

 このように、洗濯機に子供を入らせないための安全対策はある程度進んでいたが、閉じ込められた場合の対策は後手に回っていた。稼働中の洗濯槽は洗濯物や水が勢いよく回転するため、気密性が高く、中からの力でふたが開かない設計になっている。

 業界団体の日本電機工業会(JEMA)は「日本製の洗濯機は、韓国製など海外の洗濯機よりドラムが比較的小さい。そもそも、あの狭い空間に入ってみようという子供の発想に思い及ばなかった」と話す。

 出荷低迷に拍車も

 ドラム式洗濯機は縦型に比べ節水性に優れ、洗濯物を取り出しやすいメリットがあるとして15年ほど前から購入する家庭が増えた。JEMAによると、洗濯乾燥機の中でドラム型と縦型は出荷台数ベースで約50%ずつの割合を占める。

 ただ、価格が縦型より割高なことなどから、近年は売り上げが頭打ちの状態になっている。国内のドラム式洗濯乾燥機の出荷台数は平成19年度の74万3千台がピークで、26年度には50万8千台(前年度比26・5%減)となり、2年連続で減少した。

 今回の事故がドラム式洗濯機の売り上げ低迷に拍車をかける懸念もあり、各社は対応に迫られている。

 「ビッグドラム」のブランドでドラム式洗濯機を展開する日立製作所はこれまで、ふたと接着する本体の丸いフレーム部分に、注意喚起のシールを貼っていた。これではふたを開けたときしか目に入らない。

 そこで、7月製造分からふたの外側表面の上部に貼ることにした。また、大人向けではなく、子供に分かりやすいデザインや言葉で注意を呼びかけるシールを準備しているといい、「できるだけ早く貼っていきたい」としている。

 一方、JEMAは、各メーカーの製品開発担当者らを集めて安全対策を議論することにしている。パナソニック広報は「(捜査などの)状況をみながら対応を検討したい。ただ、ハードの安全対策は製品開発にかかわることなので時間がかかる」と漏らす。

 万が一、子供が入ってしまった場合に内側からふたを開けられるようにする仕組みなどハード面での安全対策は今後の検討課題のようだ。

 シャープの沖津雅浩執行役員は今月14日、東京都内で開いたドラム式洗濯機の新製品発表会で「業界全体で連携して検討している。操作性を損なわない範囲で、各社でアイデアを出して議論していく」と説明した。不幸な事故が二度と起こらないよう、メーカー側の知恵が試されている。

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