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地に墜ちた名門「阪急阪神」ブランド 身から出たさび…危機管理意識薄く

ニュースカテゴリ:社会の事件・不祥事

地に墜ちた名門「阪急阪神」ブランド 身から出たさび…危機管理意識薄く

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大阪市北区の新阪急ホテル。阪急阪神ホテルズは、ホテル事業の現場に精通した生え抜きの藤本和秀新社長のもとで信頼回復と再生に取り組むが、道は険しい=10月23日午後、大阪市北区(頼光和弘撮影)  阪急阪神ホテルズ(大阪市)でメニューと異なる食材を使っていた問題は経営トップの辞任に発展、「阪急阪神」という関西屈指の名門ブランドのイメージを大きく失墜させた。要因の一つとなったのは、ホテルズ側の対応のまずさだ。公表の仕方や遅れ、二転三転した説明…。お粗末な対応が消費者の怒りを増幅させ、顧客離れを招いたことは間違いない。地に墜ちた名門ブランドが再び輝きを放つ日は来るのだろうか。

 「揚げ足を取られた」

 10月22日午前。阪急阪神ホテルズと親会社の阪急阪神ホールディングス(HD)のホームページに、「メニュー表示と異なった食材を使用していたことに関するお詫びとお知らせ」とのニュースリリースがアップされた。

 イベント案内や新企画など、発表側にとって“イチ押し”のリリースであれば、担当記者に直接電話がかかってくることが多い。

 トップが出席する会見など、重要度の高い案内も同様だ。だが、このリリースについては連絡はなく、常駐記者がほとんどいない記者クラブに配布と同時に、マスコミ各社にファクスが送られたのみだった。

 しかし、内容は7年半の長期間にわたってメニュー表示と異なる食材を使った料理を提供した-というもの。記者クラブでは居合わせた記者が紙を置いて帰ろうとした担当者に説明を求め、ファクスを受け取った記者は電話をかけ続けた。

 だが、午後に急遽(きゅうきょ)開かれた記者会見に出席したのは営業企画部長と総務人事部長の2人だけ。会見では「だまそうとするつもりはなかった」と故意による偽装表示を否定し、利益目的ではないかと問われると、「むしろ高い食材を使っていたこともあった」と、従業員の認識不足が不適切表示につながったとの見解を繰り返した。

 ニュースはテレビも新聞もこぞってトップ扱いとした。報道がそこまで過熱するとは想定していなかったホテルズ側は「揚げ足を取られてしまった」(幹部)と感じ、24日に出崎弘社長(11月1日付けで辞任)らが出席して記者会見した。

 会見では役員報酬の返上することを発表し、辞任は否定。だが、偽装表示について「従業員が意図を持って表示し、利益を得ようとした事実はない。誤表示だ」「あくまで社員の知識不足によるもの」と言い放ち、詰めかけたマスコミからは時折失笑すら漏れた。

 社長は引責辞任したが…

 名門ホテルの偽装表示の波紋は大きく広がった。翌25日には、そごう・西武(東京)が宝塚ホテル(兵庫県宝塚市)などホテルズ系列のおせち料理の見本をいったん全店の店頭から撤去したことが判明。直営ホテルなどには消費者からの怒りの電話などが殺到し、ホテルズやHDのホームページも一時つながりにくくなった。

 事態の深刻さにようやく気づいたのか、出崎氏は再び会見を設定。当初29日午前としたが、同氏が一部偽装を認めたとの報道が流れたのを受け、前日の28日夜に急遽前倒しで行われた。出崎氏はここで「偽装と受け取られても仕方ない」と一転して偽装を認め、「信用失墜、批判の高まりがグループの各社に及び、責任は非常に重い」として辞任を表明した。

 この日は、みずほ銀行が暴力団関係者への融資を放置した問題をめぐってOBを含む54人の大量処分に踏み切ると発表。塚本隆史会長ら役員3人は辞任し、佐藤康博頭取は報酬を半年間ゼロとしたものの、自らの辞任は否定した。

 みずほの会見はある意味、引責辞任を表明した出崎社長とは対照的だった。だが、出崎社長の引責辞任という重い決断を、評価する声は出なかった。

 身から出たさび

 「これだけ大きな問題を起こしたのだから、最初から社長が出て説明を行うべきだった。消費者目線が欠落している証拠だ。身から出たさびとしかいいようがない」と話すのは、企業広報・危機管理コンサルティングのエイレックス(東京都)の江良俊郎社長だ。

 コーポレートガバナンス(企業統治)に詳しい同志社大大学院ビジネス研究科の蔵本一也教授も「健康被害などが出ていないからと高をくくっていたのではないか。名門ブランドだけに謝れば何とかなると思っていたのだろう」とみる。

 そもそも、ホテルズが消費者庁に報告したのは10月7日。公表までに2週間の「空白」があった。ホテルズ側は「各ホテルからの報告の集約や漏れがないかを確認していた」としているが、江良氏は「報告と同時に公表すべきで、問題を甘くみすぎていた」と批判。蔵本氏も「危機管理意識が薄すぎる」とあきれる。

 ホテルズでは2代続いた阪急電鉄出身者に代わって初の生え抜きの新社長が就任。阪急阪神HDから法令順守(コンプライアンス)に詳しい取締役を非常勤の会長に迎え、グループ全体でブランドイメージの回復に向けて一歩踏み出した。

 だが、信頼回復への道は険しい。「大きなキャンセルはなく、他事業にも大きな影響が出ている状況にはない」(阪急阪神HDの若林常夫取締約)とはいえ、影響の広がりに関する見通しは立っていない。阪急阪神HDの25年9月中間連結決算は増収増益となったが、26年3月期通期の業績予想は据え置いたのがその証拠だ。傷は容易には癒えそうにない。

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