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研究進むオートファジー 神経疾患、がん治療に期待

ニュースカテゴリ:社会の科学技術

研究進むオートファジー 神経疾患、がん治療に期待

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 絶食状態に陥ると、細胞が自分自身のタンパク質を食べて飢えをしのぐ。人間を含むほとんどの生物は、そんな不思議な生存機能を備えている。「オートファジー」(自食作用)と呼ばれる現象で、近年は細胞内を掃除して病気を防ぐ役割も判明。神経疾患やがんの治療などに応用する研究が世界中で加速している。(伊藤壽一郎)

 

細胞内に「ごみ袋」

 細胞は栄養が足りなくなると、内部に突然、小さな膜構造が出現する。膜は不要なタンパク質やミトコンドリアなどの細胞小器官を包み込み、直径1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)ほどの球状の小胞を形成する。

 オートファゴソームと呼ばれるこの小胞は、いわばごみ袋のようなものだ。ごみ焼却場に相当する細胞小器官の液胞やリソソームに運ばれて融合し、内容物ごとアミノ酸に分解され栄養源として再利用される。これがオートファジーの基本的な仕組みだ。

 この現象自体は古くから知られており、ベルギーの生物学者が1963年、ギリシャ語の「自分」(オート)と「食べる」(ファジー)を組み合わせて命名。だが、詳細なメカニズムは長い間、謎のままだった。

 解き明かしたのは2人の日本人だ。最初に道を開いたのは東京工業大の大隅良典特任教授(68)。東大助教授だった88年、酵母のオートファジーを光学顕微鏡で観察することに初めて成功した。

 酵母は通常、液胞内にある酵素でオートファゴソームを分解する。大隅氏は、この分解酵素を作る機能を突然変異で失った酵母を飢餓状態に置いて観察。液胞内で分解されず、顆粒(かりゅう)状にたまっていくオートファゴソームの姿をとらえた。

 翌年には電子顕微鏡を使い、酵母の細胞内に出現した膜構造がタンパク質を包み、液胞に運ばれる様子も確認。さらに93年、オートファジー機能に関わる14個の「ATG遺伝子」を発見して研究の基礎を築いた。

日本人が貢献

 研究対象を動物に拡大して発展させたのが東京大の水島昇教授(47)だ。臨床医から転身して大隅氏のチームに加わり、98年に世界で初めて哺乳類のATG遺伝子を発見。オートファジーが細胞内に核を持つあらゆる生物で起きることを証明した。2006年には遺伝子操作したマウスの実験で、神経細胞のオートファジー機能が失われると、細胞に異常なタンパク質がたまって運動障害などが起きることを確認。オートファジーが栄養不足の解消だけでなく、細胞内を浄化して健全な状態を保つ役割も担っていることを突き止めた。

 生体内のごみ処理システムは、不要な細胞を「自殺」させるアポトーシス(細胞死)や、細胞内の不要なタンパク質を見分けて分解するユビキチン・プロテアソーム系が主に知られていた。オートファジーはこれに続く「第3の機能」として注目され、研究が飛躍的に進展。約15年前に世界で年間数十本だった関連論文は、いまや年間2千本を超える。

 アポトーシスの発見は02年に、ユビキチン・プロテアソーム系の発見は04年にそれぞれノーベル賞に輝いている。大隅、水島両氏の功績もノーベル賞級との呼び声が高い。

7割は未解明

 今後の研究で大きく期待されるのは、病気の解明や治療への応用だ。オートファジーが機能せず、神経細胞に異常なタンパク質が蓄積すると、アルツハイマー病やパーキンソン病など神経疾患の原因となることが分かってきた。

 また、オートファジーは細胞の腫瘍化につながる異常なタンパク質を除去する一方、いったん腫瘍化した細胞には栄養供給システムとして働き、むしろ増殖を助けている可能性があることも判明。米国では、がん患者にオートファジー阻害剤を投与する臨床試験が始まっている。

 抗加齢医学(アンチエイジング)の分野でも注目されている。加齢とともに皮膚細胞のオートファジー機能が停滞し、新陳代謝の低下で肌の老化が進むとの研究結果が報告されるなど、研究対象は広がる一方だ。

 ただ、オートファジーの仕組みは、オートファゴソームの形成メカニズムなど不明な部分も多い。大隅氏は「全体の30%程度しか解明されておらず、オートファジーを自由自在に制御できるようになるまで道のりは遠い」と話す。

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