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小児がんの陽子線治療 高まる保険診療化望む声

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

小児がんの陽子線治療 高まる保険診療化望む声

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陽子線治療を受けるため準備する女児(中央)。1ミリ単位で照射制御がなされ、治療後遺症の可能性が低くなる=茨城県つくば市の筑波大学付属病院陽子線医学利用研究センター  がん放射線治療の一つで先進医療の「陽子線治療」は全額自己負担だが、有効性から受診希望も増えている。その中で、小児がんについて、医療関係者から放射線治療の後遺障害軽減のため、陽子線治療を保険診療にし、治療の選択肢に加えたいとの要望が上がっている。欧米や韓国などでは公費負担で小児がん治療に陽子線治療を実施している。(日野稚子)

 「怖くない」

 昭和58年以来、臨床研究として小児がん治療を続けるのが、筑波大学付属病院陽子線医学利用研究センター。放射線腫瘍学が専門の桜井英幸センター長は「世界最多の陽子線治療装置が稼働しているにもかかわらず、小児がん患者に治療環境が整わないのは保険診療になっていないから」と指摘する。同センターでは、大人のがん患者について平成20年、先進医療に変更したことで約250万円の自己負担が生じたが臨床研究よりも門戸は広がり、昨年度は360人が治療を受けた。

 現在、国内で小児がんへの陽子線治療を受け入れているのは、静岡県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)と国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)の2カ所。ともに臨床研究として行う状況だ。

 筑波大でも先進医療への移行時、小児がん陽子線治療の影響を長期追跡するため、患者のデータベース構築を目的に臨床研究を立ち上げ、それまでと同様、患者負担をなくした。24年度の実績は患者約40人、今年度は約1億円の臨床研究費で前年度と同程度の受け入れだ。

 同大の研究センターでは現在、2~14歳の小児がん患者9人が治療中だ。その一人、東北出身の村田カホちゃん(10)=仮名=は3歳11カ月のとき、副腎の神経芽細胞腫が見つかり、地元の大学病院で切除手術と化学療法を受けた。2年後、同じ部位に再発し、筑波大病院で手術と陽子線治療を実施。昨秋、胸部に神経芽細胞腫が見つかり、2度目の陽子線照射を受けている。

 カホちゃんは一連の治療で計17回の照射予定で、この日は6回目。照射中は1人きりだ。「慣れたし、大丈夫。怖くない」とカホちゃん。母親(47)も「病を治し、大人になって心と体も成長してほしい。そのためにここにたどり着き、体を痛める不安や後遺症が少ない陽子線治療が受けられた。費用負担がないのはありがたい」と話す。

 影響を最小限に

 小児がん治療は抗がん剤による化学療法を主体に、切除や放射線治療を組み合わせた標準的な治療計画に基づいて進められる。小児がん患者のうち、年間約800人程度が放射線治療を受けると推計されている。

 大人と比べて子供は放射線への感受性が高い分、放射線治療は効果が高い。一方で、副作用も無視できない。エックス線が患部を突き抜け、患部裏側の骨や臓器も放射線の影響を受ける。腹部の腫瘍治療で背が伸びずに背骨が曲がったり、頭部の腫瘍治療の結果、耳や顔面などの神経損傷、脳内の下垂体の機能が壊れて成長ホルモンが作れなくなったりするケースもある。抗がん剤同様、治療が原因となる「二次がん」を患う確率も少なくない。

 一方、陽子線はエックス線と異なり、照射時の面積や深さを調整できるなどの利点があり、周辺臓器や骨への影響を最小限にできる。

 桜井センター長は「後遺症との共存患者が減る。小児がん治療による後遺症治療は公費負担だが、陽子線治療で負担も小さくできる可能性は高い」と指摘。そのうえで、「陽子線治療施設のない英国はドイツでの治療費と渡航費を国が負担する。欧米同様、小児がんへの陽子線治療は公費負担で、適切な診療報酬を設定すれば国内の民間施設も小児がん治療に取り組むはずだ」と話している。

【用語解説】陽子線治療

 放射線療法の一つ。加速器で原子核の陽子を加速して作った陽子線を用いる。体に当てると一定距離まで進んで停止する性質がある。この際、エネルギー量が最大になるため、病巣周辺の正常組織の損傷はエックス線治療より低減される。

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