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一汁三菜 平安時代から続く食事の形

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

一汁三菜 平安時代から続く食事の形

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和食の特徴  「和食 日本人の伝統的な食文化」が昨年、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録された。しかし、伝統的な食文化とは何だろう?

 「3世代ぐらい前(昭和30年代頃)の一般家庭の食生活を思い浮かべるといい」。こう話すのは、農林水産省の「日本食文化の世界無形遺産登録に向けた検討会」会長を務めた和食研究家で静岡文化芸術大学学長、熊倉功夫さん(71)。

 1人ずつのお膳

 和食の基本形とされるのが一汁三菜(ご飯と汁物、おかず、漬物の組み合わせ)。熊倉さんによると、平安時代の食事風景を描いた絵巻物にもあり、「文献に一汁三菜という言葉はないが、平安時代には武家や平民は、銘銘(めいめい)膳(1人ずつのお膳)を持ち、庶民の食事の形態としてあったと考えられる」。

 一方、食文化の頂点に立つ、おもてなし料理。室町時代に武家社会で確立した「本膳料理」(一の膳、二の膳、三の膳と順番に膳に載せた料理が提供されるスタイル)は、小さな膳(銘銘膳)に載せる料理の数に限界があるため、膳の数を増やしたと考えられる。江戸時代には「二の膳つき」(二汁五菜)が定着し、食べ切れない料理は持ち帰った。

 あり余る料理を提供する本膳料理に対し、「茶の湯」から生まれたのが「懐石」だ。「全部食べ切る」「できたてをその都度、運ぶ」「季節感や祝いの心など言葉にならないメッセージを伝える」などが特徴で、現在の伝統的な和食のルーツとされる。

 熊倉さんは「おもてなしでは一の膳、二の膳と続くが、一般的な食事は一の膳だけ。1つの膳に載せるには、ご飯と漬物、お汁1つとお菜(おかず)が限界。しかし、現代は銘銘膳ではないので、一汁三菜でも四菜でもいい」と解説する。

 独特の口中調味

 さらに和食を特徴づけるのが、断熱性の高い器を用いた食べ方だ。

 器の中で混ぜず、器を手に持ち、箸でご飯とおかずを1口ずつ取り、口の中で混ぜ合わせて調味する。おかずの量を調節しながら、味付けを決める食べ方「口中調味」は日本人独特とされる。

 興味深いアンケートがある。辻調理師専門学校などが運営する「辻調グループ」が昨年10月、全国の20~60代の男女572人にインターネットで調査したところ、22・7%が「カレーライス」を「和食だと思う」と答えた。

 カレーライスが和食かどうかはともかく、食べ方には和食の伝統が色濃く残る。皿で混ぜ合わせず、ご飯の上にカレーを載せて食べるのは口中調味、ご飯の横に福神漬けなどを添えるのは一汁三菜の影響だ。

 南北に長く、四季のある日本列島は田畑の収穫物、海や山の幸が豊富で多彩な郷土料理が育まれた。食事を通じた家族団欒(だんらん)の日常は明治以降の近代化で家族の数が減ってから見られるようになったが、次世代に引き継ぎたい伝統の一つ。和食の魅力を考える。

 ■減少する行事食の習慣

 ユネスコへの提案書では、正月などの年中行事に、お節を囲み、食の時間を共有することで家族や地域の絆を強めていることも和食の特徴に挙げた。

 しかし、生活スタイルの変化によって行事食も変化しているようだ。博報堂生活総合研究所「生活定点」調査によると、「お節料理を食べた」人は平成4年に86.6%いたが、24年には74.8%に低下、「七草がゆを食べた」人も33.9%から28%に減った。一方、「大みそかに年越しそばを食べた」は、77.1%から76.2%と微減だった。

 和食に欠かせない主食のコメだが、コメ離れも進む。「コメを1日1度は食べなければ気が済まない」人の割合は71.4%から56.4%まで落ち込み、「和風の料理が好きな方だ」と答える人も12年の65.8%から24年は55.5%に減少。特に40代女性の落ち込みが大きく、73.6%から50.9%と大幅に減った。

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