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ノーベル賞と創薬 大和田潔

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ノーベル賞と創薬 大和田潔

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 【青信号で今週も】

 今年のノーベル化学賞は、マーティン・カープラス米ハーバード大名誉教授ら3人が選ばれました。彼らは、薬品を調達して複雑な化学反応を実際に試験管の中で行うのではなく、コンピューターで再現する方法を開発しました。MSN産経ニュースでは、同じ分野の諸熊奎治(もろくま・けいじ)・米エモリー大名誉教授が受賞を逃したことを「ノーベル化学賞逃し…諸熊教授『同じ分野の受賞、喜ばしい』」(2013年10月10日)と報道しています。

 ノーベル賞は、人々の役に立つ核心的なアイデアを考案した人々に贈られます。物質に重さをもたらしたヒッグス粒子のヒッグス博士も同様です。物質の速度が光速よりも遅いのは、邪魔をする物質があるから。見えないけれどもそこにある粒子の邪魔によって、速度が遅くなることで質量が生まれた、という新しい発想は次の理論への礎になりました。今回の化学賞も同様に素晴らしいものです。

 以前、創薬といえば何らかの化合物が偶然発見され、その形を少しずつ変えて実験を繰り返し行っていました。その無数ともいえる化合物の中から、何らかの薬効を持つものを探していくという雲をつかむような作業の繰り返しでした。この作業を繰り返すためには、できるかどうかわからない新規化合物をなんとか合成し、それを使って時間かけて実験していくことが必要です。そもそも目的の化合物がうまく合成できないかもしれないし、合成して実験してみたら薬効がないかもしれません。いずれにしても時間と労力、コストの全てが無駄になります。

 コンピューターのシミュレーションは速度もコストも効率的。諸熊教授は、この理論の実現化に大きく貢献されたそうです。たとえばインフルエンザウイルスが増殖するために必要な酵素を邪魔する薬が必要なら、その酵素にはまり込んで邪魔をする化合物を、コンピューター上で探し続ければよく、タミフルの形もそうやって見つかりました。がん増殖のメカニズムからの抗がん剤開発など、同様の方法による創薬はどんどん進んでいます。ヒッグス博士は、南部陽一郎博士の研究に支えられたと語っていました。日本人が、さまざまな分野で世界の人々に貢献している姿は頼もしい限りです。(秋葉原駅クリニック院長 大和田潔/SANKEI EXPRESS

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