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「大虐殺」江沢民氏らに逮捕状 スペイン裁判所「チベットで関与疑い」
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スペインの全国管区裁判所は11月19日、中国の江沢民(こう・たくみん)元国家主席(87)や李鵬(り・ほう)元首相(85)、喬石(きょう・せき)・元全人代常務委員長(88)ら最高幹部経験者5人に対し、チベットでの「ジェノサイド(大量虐殺)」に関与した疑いで逮捕状を出した。スペインの法律では、大量虐殺など人道に対する罪について、国外で起きた案件でも訴追できる「普遍的管轄権」が設定されており、過去にも外国の元国家元首らを訴追したケースがある。江氏ら5人は今後、スペインだけでなく、スペインと犯罪人引き渡し条約を結ぶ国々を訪問した場合、逮捕される可能性が出てきた。
ロイター通信や米国営放送ボイス・オブ・アメリカなどによると、逮捕状発行は、2006年、チベットの人権問題を支援する2団体が、5人について「1980~90年代、チベットで行われた大量虐殺や人道に対する罪、拷問、テロに関与した」として刑事告発したことを受けた措置。
裁判所は、人権団体のメンバーにスペイン国籍を持つ亡命チベット人僧侶が含まれることから約8年間にわたる調査を行い、5人が大量虐殺などに関与した可能性があると判断。同様の訴えを受けた中国当局が捜査をしていないことを理由に、スペイン当局による捜査が必要だとして逮捕状を発行した。
これに先立つ10月9日には、同じ裁判所が、中国の胡錦濤(こ・きんとう)前国家主席(70)が88~92年、チベット自治区の共産党幹部として大量虐殺に関与したとするこの僧侶の訴えを受理している。
裁判所の普遍的管轄権については、自国民を引き渡す義務はないというのが通説だ。このため、5人が中国国内にいる限り、スペインの裁判所で裁かれる可能性は低いとみられるが、中国を出国すればゼロというわけではない。
国際社会を驚かせたのは、反体制派の数千人を粛清(しゅくせい)したといわれる南米チリの独裁者、アウグスト・ピノチェト氏(1915~2006年)が大統領辞任後の1998年、英当局に逮捕されたケースだ。チリ在住のスペイン人に対する人権侵害を理由にピノチェト氏への逮捕状を発行していたスペイン司法当局は、犯罪人引き渡し条約を結んでいる英当局に、病気療養のため英国を訪れたピノチェト氏の逮捕を要請し、英当局が身柄を拘束した。
英国側は結局、ピノチェト氏の病状が悪化しているとしてスペイン当局への身柄引き渡しを見送り、2000年にチリへの帰国を認めたが、英国とチリの外交関係の悪化や、主権国家の枠組みを超えて他国の元国家元首を裁くことの是非などをめぐり、国際的な論議が巻き起こった。
江氏ら5人への逮捕状発行について、刑事告発を行ったスペインの非政府組織「チベットを支援する委員会」のアラン・カントス会長はAP通信などに「(実際の逮捕は)難しいかもしれないが、大きな一歩だ」と喜び、「彼らは中国国内に居座っているが、スペインの裁判所が出した結論を安易に考えてはいけない。中国から出国すれば、いつ逮捕されるかわからないのだ」と訴えた。
今回の逮捕状発行について、中国政府は激しく反発している。中国外務省の洪磊(こう・らい)報道官は20日の定例記者会見で、「強烈な不満と断固とした反対」を表明し、国外のチベット独立勢力を激しく非難。スペイン側には「誤った決定」を変え、影響回避に努めるよう要求した。
国際社会の中で中国が抱えるアキレス腱(けん)とも言えるチベット問題。それが欧州の一角とはいえ、国際的な司法問題に発展した意味は決して小さくない。(SANKEI EXPRESS)