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【勿忘草】森のようちえん
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「これあげる!」。満面の笑みで5歳の男の子が私に勧めてくれたのは、手のひらいっぱいの見たことのない黒い実だった。彼の好意をむげにはできない。お礼を言って一粒いただき、口に入れる。少し酸味のきいたブルーベリーといった感じでおいしかった。
森や里山など、自然に触れながら子供たちを育てる「森のようちえん」が注目されているという。取材しようと、神戸市西区の里山を訪ねた。12人の園児が集まる「神戸・野あそび舎わっこ。」は、2人の母親が3年前に始めた自主保育の団体だ。その日は保育士2人、母親2人の体制で集合場所の古民家から外へ飛び出した。まずはイモ掘り。そして、周辺の散策。子供たちはミミズを見つけても、用水路で汚れてもへっちゃら。大人たちは何も言わず見守っている。私も、その保育方針に沿おうと、目の前に虫を突きつけられても、いつものように逃げることはせず、子供たちと真剣に向き合った。そして、「謎の黒い実」も食べた。
そのうち、自分の子供のころを思い出してきた。小学校の帰り道、ムカゴを集めたり、クワの実を食べたり。友達とは公園の沼地でザリガニを捕ったり、森の中に秘密基地を作ったり。久しぶりに小学生の自分と再会し、思わず足元のぺんぺん草を摘んで耳元で鳴らした。懐かしい、素朴な音がした。
「今の子供たちは野山で遊ぶ機会がない。親が率先して遊ばせるか、保育園のような形で遊ばせるか。それしかないのです」と、岐阜大学教育学部の今村光章准教授が言った。「わっこ。」では、年長者が年少者に自然との付き合い方を教えていた。もとは大人が意図して作った場所ではあるが、年の違う子供たちが集い、かつてあった子供のコミュニティーが復活しているようだった。
森のようちえんへの関心は、東日本大震災を機に高まったという。今村准教授は「自然は人間がコントロールできるものではない」と感じた人が増え、子供が外で遊び、自然を学ぶことの意義が見直されたと指摘する。
季節ごとに、森の中や道ばたに生えた食べられる植物を見つけ、薪で煮炊きする。自然と親しむなかで、「生きる力」を育む子供たちに頼もしさを感じた。(佐々木詩/SANKEI EXPRESS)