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格安・高軌道 衛星市場に転機 スペースX 商用打ち上げ成功

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格安・高軌道 衛星市場に転機 スペースX 商用打ち上げ成功

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 米宇宙ベンチャーのスペースXは12月3日、ルクセンブルクに本社を置く通信衛星運用大手SESの人工衛星を米フロリダ州のケープカナベラル空軍基地から打ち上げた。スペースXによる商用衛星の打ち上げは初めて。SESはインドや東南アジア向けに、衛星ブロードバンド(大容量回線)を用いてテレビ放送やインターネット配信のサービスを拡充する。スペースXの打ち上げ費用は、これまで打ち上げを受託してきた欧州やロシアの政府系機関に比べ、はるかに低価格だ。このため、今回の打ち上げ成功は、将来有望な商用衛星ビジネスにとって、「ゲームのかたちを変える転機」との指摘が出ている。

 三度目の正直

 英BBC放送や米紙クリスチャン・サイエンス・モニター、ウォールストリート・ジャーナル(いずれも電子版)などによると、スペースXは米東部時間3日午後5時41分、最新型ロケット「ファルコン9 V1.1」を使って通信衛星「SES-8」(重さ約3.2トン)を打ち上げた。

 技術的なトラブルで打ち上げは先月(11月)、2回延期され、この日が3回目。今回は問題なく、打ち上げから33分後、衛星は無事、地球の上空約3万6000キロの静止軌道上に乗った。

 スペースXはこれまで約40回の打ち上げを実施し、国際宇宙ステーション(ISS)には無人機「ドラゴン」が10回物資を運んでいるが、これらは高度数百キロから千数百キロの低軌道に乗せたものだった。しかし、今回の打ち上げで、ファルコン9の最新型は、利用目的の広い高軌道に初めて商用衛星を乗せることに成功した。

 これについてスペースXの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏(42)らは声明で「今回のSES-8の打ち上げ成功で、バージョンアップしたファルコン9が(商用衛星などの)打ち上げに関し、業界最高の性能を有することが確認できた」と胸を張った。

 一方、顧客であるSESのマーティン・ハリウェル最高技術責任者は、打ち上げ前、BBCなどに「(成功すれば)スペースXは商用衛星市場での競争の流れを一気に変え、業界を根底から揺さぶる存在になる」と指摘した。

 シャトルの8分の1

 この指摘は大げさではないだろう。スペースXの公式サイトによると、ファルコン9の打ち上げ費用は5650万ドル(約56億円)。米のスペースシャトルの約8分の1だ。低価格で安全に商用衛星を高軌道に飛ばせるなら注文が殺到するに違いない。

 通信衛星分野で世界2位のSESは、これまでに欧州諸国が共同設立した欧州宇宙機関(ESA)のアリアンやロシア連邦宇宙局のプロトンといったロケットで約50の通信衛星を打ち上げ、約6000のテレビ局に衛星ブロードバンドを供給してきたが、今回の打ち上げ費用は過去最安だったという。ロイター通信は、スペースXが今回、大幅に値下げして受注した可能性を指摘している。

 業界団体によると、昨年の商用衛星の世界市場規模は前年比38%増の1900億ドル(19兆円)で、全体の45%は米国、900億ドル分はテレビ関連だった。新興国の経済発展もあり、市場がさらに拡大するのは確実だ。

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も9月、新型ロケット「イプシロン」を打ち上げるなど市場参入を狙っている。だが、「打ち上げ価格の競争力なら世界最強だ。さらに、わが社の新技術によって同業他社は市場撤退を余儀なくされる」(マスクCEO)と豪語するスペースXが“台風の目”になるのは間違いなさそうだ。(SANKEI EXPRESS

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