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政治
「待ったなし」 外資が狙う水資源
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英国秘密諜報部「MI6」のスパイ、ジェームズ・ボンドの活躍を描く人気映画シリーズで、2008年に公開された「007 慰めの報酬」は、ボンドが南米ボリビアを舞台に水資源の独占による世界支配をたくらむ秘密組織の野望を打ち砕くストリーだった。ボリビアで起こった水道民営化とコチャバンバ水紛争という実際の事件に基づいおり、「水の危機」という世界的な課題も反映されていた。
人ごとではない。地球上で水の争奪戦が繰り広げられる中、近い将来、日本とて“天然の恵み”と思い込んできた水が払底する懸念はぬぐえないのである。
中国をはじめとする外国資本による日本国内での森林買収が着々と進んでいる。狙いは地下水などの水資源の確保にあるとみられている。だが、この外資による水資源買収は事実上野放し状態であり、国と地方自治体が主体となって地下水を河川水、湖沼水などの地表水とともに管理する体制、ルールを作ることは「待ったなし」なのだ。しかし、どうも永田町の一部のセンセイたちは危機感が足りないようである。
臨時国会では、政府・与党が重要法案に位置づけた特定秘密保護法案成立をめぐる与野党攻防が繰り広げられた。その陰で本来、是が非でも成立させるべきでありながら提出さえ阻まれた“もう一つの重要法案”があった。
それが「水循環基本法案」だ。内容は、水資源を「国民共有の貴重な財産」とし、首相が本部長を務める「水循環政策本部」を内閣に設置して7つの省庁がバラバラに管理する国内の水資源を一体的に管理することなどを柱としている。
「日本の水資源を守れ!!」と訴える超党派の「水制度改革議員連盟」=会長・石原伸晃(のぶてる)環境相(56)=は議員立法で先の通常国会にこの法案を提出し、6月18日に衆院本会議で全会一致で可決された。むろん与野党の「対決法案」になる性格のものではない。それに先立つ衆院国土交通委員会での審議時間も半日程度で、つつがなく処理された。
ところが参院では安倍晋三首相(59)に対する問責決議案が可決される泥仕合が展開され、全く審議されることなく葬り去られてしまった。
議連幹部は当然、秋の臨時国会での成立を期した。しかし野党第一党の民主党が分厚い「壁」となった。議連関係者が舞台裏を打ち明ける。
「事前の国対レベルの折衝で民主党が特定秘密法案を盾にそれ以外の法案は審議に応じないと宣戦布告してきた。2度も廃案となれば、それこそ水の泡になりかねない。民主党から成立に協力するとの言質がとれない限り、提出をあきらめざるを得なかった」
つまり国益をかんがみない民主党の国会対策により棚上げを余儀なくされてしまったわけだ。案の定、この党は先頭に立って国会最終盤で「秘密保護法案潰し」に憂き身をやつした。
重要法案がめじろ押しのなか、たっぷり「夏休み」をとって会期をわずか53日間にとどめた首相の読みの甘さは否めないが、国会議員の劣化を象徴する“事件”も足を引っ張った。秋の園遊会で天皇陛下に手紙を渡した山本太郎氏(39)=無所属=と、参院の許可を得ずに北朝鮮へ強行渡航したアントニオ猪木氏(70)=日本(にっぽん)維新の会=の両参院議員の処分のために参院議院運営委員会で対応を協議したり、参院本会議で懲罰動議を採決したりと、国会は不毛な後始末に付き合わされてしまった。
水制度改革議連事務局長の中川俊直衆院議員(43)=自民党=は12月3日の会合で「(来年の通常国会で)水循環基本法案を一日も早く成立させたい」と強調したが、順調に審議されても成立は来年度予算成立後の4月以降になるだろう。
そうこうしている間にも外国資本は日本各地の水資源に忍び寄っている。「空白の半年」を作った政治の責任は重いと言わざるを得ない。(高木桂一/SANKEI EXPRESS)