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民主党 奇策で議事進行の「ルール変更」
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米上院(定数100)で11月、議会審議のルールをめぐる歴史的な変更があった。大統領が指名する人事の承認に事実上必要な賛成票の数を60以上から51以上に引き下げる内容で、野党共和党が人事承認の妨害を繰り返していることに業を煮やした民主党による変更劇だった。民主党は今回、3分の2以上の賛成が必要なルール自体の変更ではなく、過半数の賛成で可能な慣例の上書きという奇策を使って実質的なルールを変更。こうした手法は多数派の横暴につながりかねず、「核オプション」とも呼ばれてきた。共和党は民主党への反発を強めており、今後の議会運営にさらなる禍根を残すことになりそうだ。
変更の対象になったのは議事進行妨害(フィリバスター)の扱いだ。上院のルールでは議員の発言時間に制限が設けられておらず、与野党が納得いくまで審議を続けることが前提。採決に進むためには60以上の賛成票で審議の打ち切り動議を可決する必要がある。しかし上院では多数党であっても60議席以上を確保することはまれ。少数党がフィリバスターを宣言して審議の継続を求めれば、採決を行うことは不可能となる。
現在の上院でも民主党の議席数は55にとどまり、単独ではフィリバスターを打ち破ることができない状態だ。米メディアによると、共和党は2009年1月のオバマ政権発足以降、80回以上もフィリバスターを実施。「決められない議会」への批判が高まる一因となっていた。ただ、フィリバスターのルールの変更自体には3分の2(67票)以上の賛成が必要なため、事態打開は容易ではなかった。
しかし民主党のハリー・リード上院院内総務(74)は11月21日、「抜け道」を使う形で事態打開に打って出た。
リード氏はこの日、かつて共和党のフィリバスターで採決に進むことができなかった首都ワシントンの高裁判事人事の承認に関連して、「連邦最高裁判事以外の人事では、過半数の賛成で審議を打ち切ることができる」とする提案を行った。議事を進行する上院議長代行はこの提案を即座に却下したが、リード氏はこの上院議長代行の判断に異議を申し立てて投票を要求した。投票結果は上院議長代行の判断への賛成が48票、反対が52票。上院議長代行の判断は否決され、リード氏の提案が認められる形となった。
共和党にすれば、リード氏の異議に関する審議を求めてフィリバスターを行いたいところだったが、上院議長代行の判断に対する異議は審議なしで採決に進むことが事実上認められており、フィリバスターは通用しない。しかもルール自体の変更ではないとみなされ、過半数での可決が可能だ。さらに今回、上院議長代行の判断が覆されたことは「新たな慣例」として確立されることになり、今後の人事承認の審議でも慣例として、過半数の賛成で審議を打ち切って採決に進むことが可能になる。
こうした抜け道の活用による事実上のルール変更の可能性はかねてから指摘されており、これまでも現実になる可能性が取り沙汰されていた。しかし過半数でルール変更が可能となれば、二大政党が定着している米国では多数派が必ずルールを変えられることになる。このためこの手法は可能ではあるがとるべきではない「核オプション」と位置づけられてきたという経緯がある。
民主党が今回、核オプションをとったことに共和党側の怒りは頂点に達している。フィリバスターは審議停滞の一因でもあるが、審議で少数派の意見を取り入れるように促す効果もあるからだ。共和党のミッチ・マコネル上院院内総務(71)は審議終了後、事実上のルール変更で多数派と少数派の協調が損なわれることは「悲しむべきことだ」と表明。民主党が支持してきた医療保険制度改革(オバマケア)の混乱が続いていることに触れ、「民主党は必死に話題を変えようとしている」と批判した。
マコネル氏は6月の時点で、仮に民主党が核オプションを選択すれば「次の多数派は全てについてルールを変更するだろう」と述べ、今後の選挙で共和党が多数を占めた場合には、今回の変更に含まれなかった議案審議でのフィリバスターのルール変更に取り組む可能性を示唆していた。
共和党が実際に「核の報復」に出るかは不明だが、今回の民主党の選択で両党間の不信感が強まったことは間違いない。(ワシントン支局 小雲規生(こくも・のりお)/SANKEI EXPRESS)