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長さ、重さ、素材 自分に合ったオリジナル箸 京都 おはし工房
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1万本に1本といわれる日本最高の木といわれる黒柿の箸(1万5500円)と箸箱(15万7500円)、箸置(1000円)。孔雀杢といわれる水墨画で描いたような日本的美しさを持つ
自分にぴったりな世界でたった1本のオリジナル箸を作ってくれるのが「京都 おはし工房」。独立御箸師として活躍する北村隆充さん(42)が2003年に立ち上げた工房だ。木のぬくもりあふれる扉を開けると、お箸がずらりと100種類以上並ぶ様は壮観の一言に尽きる。毎日使う箸であっても、こだわって選ぶのは色柄だけ、という人は多いはず。自分の手指にしっくりとなじむお箸とは、どんなものなのだろうか。
「この胡麻をつまんでみてください」と北村さんに言われて渡されたのは八角形のお箸。四角のお箸と違って指のあたりが優しく、滑らないのが特徴。小さな豆皿には胡麻が20粒ほど。普段の箸の使い方では滑ってつかむことができなかったが、北村さんから正しい持ち方を教わり、小指の力加減や親指の角度を少し調整してみると、小さな胡麻が簡単につまめる。驚き。その謎はシャープな箸先にあるという。
「高級なワイングラスが薄いものであるように、箸も唇にあたる面積が少ないほうが、食材のおいしさそのものをより感じることができるんです」
こちらでは、箸の長さや好みの木材、重さなどが自由に選べる。オーダーならではの利点といえるだろう。ちなみに箸は手の大きさによって若干長さを変える必要があるといい、市販されているものは平均身長160センチの女性に換算して、女性用の箸は22センチ。男性用は170センチと計算して23センチが相応の長さという。
また、木材へのこだわりも並々ならぬものを感じさせる。いかにも京都らしい竹材や茶道に使う煤竹(すすだけ)をはじめ、日本全国の銘木材、世界各地の希少木材など、約100種類の厳選素材から良質な部分だけをさらに選別して使用する。現在はワシントン条約で輸入できない青黒檀(あおこくたん)といった希少木材もある。
例えば、クワ科の植物であるレオパードウッドは、その名の通りヒョウ柄のように浮き上がった木目が美しいお箸。別名スネークウッドとも呼ばれている。「木のダイヤモンド」と呼ばれる世界最高峰の銘木材で、比重が重く、水中に入れると重くて浮き上がってこないほどだという。
「一度だけ使われる割りばしは、華やかな香りを持つスギなどの針葉樹が好まれるのですが、毎日使う箸に向いているのは香りのない広葉樹の堅い素材なんです。中には専用のやすりをかけて削らねばならない木材もあるんですよ」と北村さんは笑う。
毎日使うものだけに、箸の表面を保護する塗料にも気を使う。安価な塗りばしは塗料で軟らかい木を堅く固めているものが多いそうだが、この工房では1枚の木材を削り、箸づくりに向く中心部のみを使用し、残った端材は箸置きや箸箱へと余す所なく活用する。
通常なら最後に行う柄合わせだが、こちらでは横向きにそろえて一膳ずつ作るため、柄がそろっているのも特徴だ。天然の拭きうるしで乾かしては削り、また塗るという工程を3度ほど行い、つややかに仕上げて、ようやく一膳の箸が完成する。木の持つ色合いを生かして作るため、バラのようなピンクやあざやかなオレンジ色の箸は、その木が持つあたたかな天然色が目を楽しませる。
良いものを何年も使ってもらいたい、という思いからメンテナンスも万全。こちらの箸はもともと堅い木材を使用しているため、修理に持ち込まれるもののほとんどは、年月を経てつやがなくなったり、食器棚の引き出しにひっかけて折れるケースがほとんど。安価な箸のように自分でかんで折れたといったケースはまずないという。そういった修理には、短くはなってしまうものの、削って漆を塗り直すといった対応をとる。
日本人なら三度の食事で毎日使う箸は、指先と唇で使いやすさと口当たりの良さを実感できるぜいたくな道具。それだけに、オーダーは注文から約3カ月待たねばならないが、自分にぴったりな道具をあつらえてもらうという何ものにも替え難いぜいたくな時間といえそうだ。
仁和寺や金閣寺にほど近い立地にあるため、観光客も多い。オーダーのみだけではなく、市販品や手頃な菜箸も販売されているのでお土産にもぴったりだ。(文:木村郁子/撮影:恵守乾/SANKEI EXPRESS)