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怖いといって逃げてはいけない 初の一人芝居「声」 鈴木京香さんインタビュー
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撮影の合間の愛読書はエッセーだという、女優の鈴木京香さん(宮川浩和撮影) 鈴木京香(45)が、三谷幸喜(52)の演出で、初の一人芝居に挑む。20世紀を代表する芸術家、ジャン・コクトー(1889~1963年)の作で、1930年に初演した戯曲「声」。18日からスパイラルホール(東京)で上演する。
たった一人、舞台でスポットライトを浴びることを「よくやるね、と舞台経験豊富な方から言われました。私だって、一人芝居をやることなんて、ないと思っていました」と明かす。しかし、三谷に加え、米ドラマ「セックス・アンド・ザ・シティ」など、洗練された翻訳に定評がある徐賀世子による新訳、気鋭のアートディレクター、森本千絵が舞台美術を手がけるという豪華さに「すべてがすてき。これは怖いといって逃げてはいけない」と覚悟を決めた。
演じるのは、別れたかつての恋人への愛や執着を断ち切れずにいる女性。彼と女性が電話で会話する場面のみで描く一幕劇だ。文字通り、電話は女性にとってのライフライン(生命線)である。
冒頭、女性は電話の向こうの彼に対し「別れても平気」といったふうに装おうとする。が、彼が電話を切る「その時」が近づくと、突拍子もない世間話を始めたり、弱い姿をさらけ出す。なりふり構わず話をつなごうとする様は痛々しくもある。
「思い込みも、自己愛も強く、最初は愚かな女性だと感じました。でも彼に対する愛が強すぎて、そう振る舞わざるを得なかったんだと、稽古が進むうちに気付いて、なんだか切なくなりました」。鈴木は女性像に心を寄せ「本当はかわいらしさもある、普通の女性なんです」と、かばうように言った。
一見、女性の独白劇だが、「電話の先に相手がいる。実は会話劇」だという。彼の「声」は「…」の「間」で表現され、戯曲に一切、出てこない。そのため、女性を演じる裏側で、電話越しの彼の気配も伝えるという緻密な演技が求められる。
今回、三谷と鈴木は6月から緩やかな頻度で稽古を重ね、時間をかけて背景や人物を掘り下げた。その過程で鈴木は改めて「男心は女と違う」と思い至ったそうだ。
「女性が『つらい』と言うと、彼には嫌みに聞こえたり。彼が話題を変えたのは、女性の言葉にいたたまれなくなって、彼がごまかそうとしたんだ、とか。同じ場面で、同じように想像をふくらませても、彼の気分について三谷さんとで解釈が違うんですね」
ドラマ「王様のレストラン」(1995年)以来、テレビ、映画を中心に三谷作品の常連。コミカル、チャーミング…三谷はこの美人女優の新たな魅力を、次々と発掘していった。
「今回も、三谷さんの演出で、私がしっかり表現すれば、会話の奥で男性がどぎまぎ、焦る様子も伝わると思います」。三谷に全幅の信頼を置いている。
女優になって25年目。夏に初エッセーを書くと決め、秋には故郷・宮城県で被災地で奮闘する医師夫妻の姿を描いた映画「救いたい~Doctor’s wish」(来秋公開予定)の撮影に臨み、そして今、一人芝居。夏以降に初挑戦が2つ、けっこう忙しかった。
「別に25年の節目だから、じゃないんです(笑)。エッセーはいつか書いてみたかったから。仙台ロケの映画は、被災地が故郷の私がやるべきだと思いました」
仙台へ往復する新幹線の車中や「声」の稽古後に、コツコツ、文を書きためた。その初エッセー「丁寧に暮らすために。」が(12月)13日、書店に並んだ。
アルファベット順に、鈴木の好きなもの、ひと、ことを、字引風に並べてつづった。被災地となった故郷のことは「V」(ボランティア)の項目に。人々の支援に心からの感謝をつづった。「東北の女の典型的な質で、これまで発言するのはおこがましいと遠慮していました。でも私は故郷が好き。復興が進んでいるとはいえない。仕事柄、私を見てくださる方がいることを正しく理解し、発信したいと思うんです」
東北を、覚えていてほしい。方言に凝っているんです。そんな鈴木のやわらかな声が、心に響いた。(文:津川綾子/撮影:宮川浩和/SANKEI EXPRESS)
2013年12月18~26日 スパイラルホール(東京)。シス・カンパニー(電)03・5423・5906。www.siscompany.com/voice/