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経済
調査に限界 本当の「ブラック企業」たどり着けず
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【ブラック企業対策】業種別の違反割合=2013年12月17日、厚生労働省発表、※5111社の監督実施 ≪厚労省、5111社の監督実施 82%に労働時間などで法令違反≫
厚生労働省は12月17日、過酷な働かせ方で若者らを使い捨てる「ブラック企業」対策として、情報を基に選んだ全国5111の企業や事業所に対して9月に実施した監督結果を発表した。全体の約82%に当たる4189企業・事業所で長時間労働や残業代不払いなどの法令違反があり、是正勧告した。ブラック企業が社会問題化する中、違法な過重労働を強いる事業所が蔓延(まんえん)している実態が浮き彫りになった。
田村憲久厚労相(49)は17日の記者会見で「若者の使い捨てが疑われる企業の問題をそのままにしておいては日本の発展はない」と強調。「対応策を強化して、若者をはじめとする方々が安心して働ける環境をつくりたい」と述べた。
厚労省は「若者だけを対象にしたものではないが、過重労働を強いられるのは若者が多い」と分析。是正しない場合は、労働基準法違反容疑などで送検した上で社名を公表するとしている。
監督結果によると、是正勧告を受けた事業所のうち、労使で決めた残業時間の上限を超えて働かせるなど違法な時間外労働があったのは、43.8%の2241。残業代不払いは23.9%の1221だった。
厚労省が過労死の認定基準としている時間外労働月100時間を超えて働いた人がいるのは730に上った。厚労省は、長時間労働を減らし産業医の面接を受けさせるよう事業所を指導していく。
業種別では、監督を実施した事業所のうち違反割合が最も高かったのは、飲食などの接客娯楽業で87.9%。次いで運輸交通業が85.5%、病院などの保健衛生業が83.6%で続いた。法令違反のうち、違法な時間外労働は運輸交通業、残業代不払いは接客娯楽業と建設業が最も多かった。
監督実施に先立ち、厚労省は9月1日に全国で電話相談を受け付け、寄せられた情報や過去の違反歴、離職率の高さを基に対象を選定。当初は企業・事業所を4000程度と見込んでいたが、問題事業所の掘り起こしが予想以上に進み、最終的に5000を超えた。
≪調査に限界 本当の「ブラック企業」たどり着けず≫
監督結果を公表した厚生労働省。ブラック企業への社会的関心は高く、厚労省は対策を続ける方針だが、最前線で違反を取り締まる労働基準監督官の数は少なく、権限も限られる。現場の監督官からは「本当に悪質な企業はまだ多数あるが、たどり着けていない」との声が漏れる。
長時間労働、残業代未払い、労災隠し…。監督官の守備範囲は幅広い。しかし、多くの職場で問題となっているパワーハラスメントやセクハラは直ちに違法とはいえず、取り締まりの対象外。ブラック企業が若者を退職に追い込む手口の一つにしている執拗ないじめには、対応しきれないのが現状だ。
厚労省によると、監督官は全国に約3000人で、監督対象となる事業所は約430万に上る。2012年には約13万事業所を立ち入り調査。約9万事業所に是正勧告して約1100を送検したが、すべてをカバーするのは無理がある。
英国やドイツなどの欧州各国に比べると労働者当たりの監督官の数は見劣りするが、全体の公務員数が抑制される中、大幅な増員を見込むのは困難。田村憲久厚労相は17日の記者会見で「ブラック企業は許さない」としつつも、「(監督官の)大幅増は厚労省だけではやれない」と話した。
厚労省は今回、離職率の高さや過去の違反歴、労働者からの情報提供などを基に、調査対象の5111事業所をリストアップ。ただ、現役監督官の一人は「労働時間や賃金の違反は改善可能な場合も多い」として、是正勧告した事業所が必ずしもブラック企業とは言えないと指摘する。
この監督官は「委託や請負の形で働くトラック運転手などは、雇用保険や労災保険に加入できず、最低賃金も守られていない。こういう働かせ方をする会社こそが問題だ」との見方を示す。
法律上の“労働者”として扱われないことが多く、労基署も実態を把握しきれない深刻なケースもあるとみている。
劣悪な労働条件を改善するためには労働組合の役割も重要だが、12月17日に厚労省が発表した調査では全体の組織率は17.7%で過去最低。中小企業では労組がない方が多く、非正規労働者の加入もなかなか進んでいない。
厚労省や全国の労働局、労基署職員でつくる「全労働省労働組合」の森崎巌委員長は「労使が対等に話し合うため、職場に労組を作るよう促していく政策も必要だ」と提案。労働相談を手掛けるNPOからも「労基署は労組やNPOと連携すべきだ」との声が上がる。
一方で、ブラック企業を見極める目を養うことに力点を置いた取り組みも進む。法政大キャリアデザイン学部の上西充子教授らは、学生向けに冊子「ブラック企業の見分け方」を作成、無料で公開している。
注意すべき点として「新卒社員の3年以内の離職率3割以上」「求人広告や説明会の情報がころころ変わる」などを挙げ、企業のホームページや「就職四季報」の読み方を解説。上西教授は「学生は仕事の中身には興味を持つ。だが、企業がどう自分を働かせるかに関心を持つことも大事だ」と指摘した。(SANKEI EXPRESS)