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首相の靖国参拝 欧米メディアも批判一色

 安倍晋三首相(59)が靖国神社を参拝した。「二度と再び戦争の惨禍によって人々が苦しむことのない時代をつくるとの誓い、決意をお伝えするため」と説明したが、米国政府は不快感をあらわにし、欧米メディアもそろって、域内を不安定化させる「挑発」と批判した。中国メディアも“追い風”が吹いていると判断したのか、日本に過剰な報復をしても国際社会の「理解を得られる」と居丈高(いたけだか)な言動に拍車をかける。オバマ政権を中心に評価を得ていた安倍政権の外交政策には、逆風が吹き始めた。

 「真実への侮辱」と指弾

 「中国や北朝鮮の行動をみれば、安倍氏には(防衛予算増などの)改正を追求し、米国との防衛協力を緊密化する相当な理由がある。しかし、こうした政策を戦前の日本の帝国主義への郷愁と結びつけるように見られてしまえば、正当な根拠が揺らいでしまう」

 昨年(2013年)12月28日付の米紙ワシントン・ポスト社説は、安倍首相の外交手腕に一定の評価を与えながらも「歴史修正主義者としても悪名が高い」と指摘。靖国参拝は「安倍氏の国際的な立場と日本の安全保障を、より弱体化させる挑発的な行動だ」と厳しく批判した。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルの昨年(2013年)12月27~29日付社説も根拠不明な「化学兵器や性奴隷」を持ち出してステレオタイプの対日批判を展開し、一部の日本の政治家が「戦時中の非道の真実をごまかしている」と指摘し、「真実への侮辱」は同盟国を「傷つける」と切り捨てた。

 英独仏メディアにも安倍首相の参拝に理解を示す論調はなく、靖国参拝に関して安倍政権は“四面楚歌(しめんそか)”に陥っているのが実情だ。

 拍車をかける不勉強

 海外の政府やメディアが靖国参拝を批判的に取り上げる大きな要因に、A級戦犯の合祀(ごうし)がある。死者にムチを打たず、霊を供養する日本の死生観は、欧米や中韓には通用しない。これに各国記者らの誤解や不勉強が拍車をかける。

 米紙USA TODAYは靖国神社を「戦争を賛美している」と述べ、遊就館を指すとみられる「MUSEUM(展示館)」では「日本の戦時中の攻撃性を際立って美化した解釈を提示している」と批判する。

 米紙ワシントン・ポストも、天皇陛下も参拝を控えているとした上で、靖国神社の関連施設は「日本の韓国や中国への侵略が、西洋の帝国主義からアジアを解放する正当な試みとして描かれている」と“解説”する。

 各紙は総じて、そこに参拝する安倍首相は、周辺国との「緊張を利用して広範な右翼的政策を正当化しようとしている」(ワシントン・ポスト)と批判する。

 朴大統領に投げた「命綱」

 安倍首相の参拝では、米国務省のジェン・サキ報道官が「disappointed」との表現で不快感を示した。駐日米大使館は「失望している」と訳したが、「残念だ」の方が原文のニュアンスに近い。

 それでも、米国が示したネガティブな反応の意味合いについて、アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)の知日派、マイケル・オースリン氏は米誌で、中国や韓国は、「日本に圧力をかけ、孤立させる容赦のない試みを継続するため、(米国が発した)合図と見るだろう」と指摘する。

 実際に中国共産党機関紙、人民日報傘下の国際情報紙、環球時報(英語版)は昨年(2013年)12月27日付の社説で、安倍首相らを5年間の入国禁止にするブラックリストの作成を提案。国際社会も「安倍の挑発と戦争犯罪を認めない日本への対抗措置として共感し、理解するだろう」と珍妙な持論を展開した。

 また、政治学者のカール・フリードホフ氏は米紙ウォールストリート・ジャーナルへの寄稿で、強硬な対日姿勢が批判にさらされていた韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領(61)に安倍首相が「命綱を投げた」と述べ、結果的に朴大統領を利することになると指摘している。(国際アナリスト EX/SANKEI EXPRESS

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