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【日本列島まるかじり】秋田県 売り込み下手だけど…ハム、和牛も逸品です
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秋田のブナ林に残るひときわ太いブナの木。ブナは戦時中に燃料確保のため伐採が進められたが、地元の男性たちが森を守るために「母となる木」をところどころに残した 日本の魅力が改めて見直されるようになった近年、地元の人しか知らないようなご当地グルメや観光名所がクローズアップされる機会も増えてきた。それでも、全国に紹介されている都道府県の魅力はほんの一部。現地に行けば、隠れた各地の魅力に出合えるかもしれない…。そんな期待を胸に、SANKEI EXPRESSの記者が日本列島を歩いて知られざる名物や魅力を発信する「日本列島丸かじり」。第1回は、北の味や温泉など冬の魅力がたっぷり詰まった「秋田県」へと足を運んだ。
秋田の名物と言えば、きりたんぽに稲庭うどん、なまはげなどが思い浮かぶ。どれも魅力的だが、もっと知られざる名産品はないものか…。リサーチを進めると、秋田の南部・大仙市(だいせんし)に位置する大曲(おおまがり)に、全国でも珍しい伝統的なドイツソーセージの製法を守る「嶋田ハム」があるとの情報をゲット。東京駅から新幹線「こまち」で約3時間30分、まずは「大曲駅」で降り、嶋田ハムの工場を訪ねた。
嶋田ハムは1977年、社長で現役の職人でもある嶋田耕治さん(76)が創業。嶋田さんは60年代後半、生まれたばかりのヒナの雌雄を見分ける高等鑑別師として旧西ドイツへ渡った。そこで本場のソーセージに魅了され、9年間の修業を経てソーセージの作り方をマスターした。
嶋田ハムの特徴は、大きく2つ。一つは一つ一つのソーセージの張り具合などを確認するため、腸詰め作業をすべて手作業で行っていること。もう一つは、薫製する際に天然の薪を使って火を起こしている点だ。嶋田ハムでは秋田県産のナラの薪を使い、火加減を調整しながら約3時間薫煙する。寒い地域の樹木は長い冬の間に樹脂をため込むため、ソーセージの薫煙に適した薪になるそうだ。
取締役の花沢直樹さんによれば、薪で薫煙するとソーセージの皮が硬くならず、最高の食感を生み出せるという。「こうした製法を守っている工場はドイツにもほとんど残っていないそうです」。また嶋田さんは、「良質な薪が採れる秋田で育んだハムの味を、これからも守り続けたい」と話していた。
続いては秋田県民の食文化を探るべく、“地産地消”を大切にする大曲発祥のスーパー「グランマート・タカヤナギ」を訪ねた。タカヤナギは、県南部を中心に17店舗を展開。店内の生鮮食品コーナーにずらりと並んでいたのは、秋田名産の魚、ハタハタだ。
タカヤナギの地産地消バイヤー、佐々木浩さん(47)によると、ハタハタは秋田沿岸では11月下旬から12月上旬に水揚げされるため、生で並ぶのはこの時期だけ。「秋田では昔から、この時期に取れたハタハタを塩や味噌に漬けて冬の間のタンパク源として利用しました。ハタハタで作る魚醤の『しょっつる鍋』も有名ですが、私は塩焼きが“推し”です」
さらに店内を歩くと、精肉コーナーに「三梨(みつなし)牛」という看板を発見。湯沢(ゆざわ)市の三梨(みつなし)地区で飼育される希少な黒毛和牛で、評価は松坂牛と同じA5。美食家の間では“幻の和牛”として知られ、非常に希少でほとんどが県内で消費されている。「ほかのブランド牛にもまったくひけを取らないのですが、全国には知られていませんよね。いいものを持っているのに、引っ込み思案で売り込みが下手な秋田県人のような和牛です(笑)」
次は“みちのくの小京都”と呼ばれる城下町、角館に向かった。老舗が並ぶこの街でも、特に長い歴史を持つみその店「安藤醸造」へ。安藤醸造は1853年に創業、米と大豆、塩、麹菌のみで今も手仕事で作られる「米味噌」が有名だ。そのほかしょうゆや塩麹、しょっつる、漬けものなど郷土の味がそろう。
女将の安藤雅子さんによれば、良心的な値段に抑えるため流通経費などを考慮し、ほとんどの商品を本店とその周辺の店でしか販売していないという。どおりで評価が高い割りに、関東にはまったく流通していないわけだ。「送料が掛かりますが、商品は通販でも購入いただけます。関東には角館のお店に寄られて以来、ずっと買ってくださる方も多いですよ」
角館(かくのだて)で街歩きを楽しんだら、この旅の最終目的地、乳頭(にゅうとう)温泉郷へ。日本を代表する温泉地とも言われる乳頭は、休暇村乳頭温泉郷をはじめとした7軒の宿が並ぶ。この日は休暇村に1泊し、青みがかった乳白色の硫黄泉で疲れを癒やした。
休暇村の自慢は、このお風呂と郷土料理のバイキング。レストランにはイワナの塩焼きやハタハタの貝焼き、いぶりがっこ、独特のダシが出る「比内(ひない)地鶏」で作る山の芋鍋などが並び、郷土料理を一堂に楽しむことができる。
翌朝は、休暇村を拠点に行われている雪山散策「スノーシュー」を体験。アルミ製の現代版かんじき「スノーシュー」を履いて雪の上を歩くプログラムだが、スノーシューは想像以上に軽く、深い新雪の上もスイスイと歩くことができる。ガイドの草●(=弓へんに剪)幸子さんによれば、夏場は笹が茂って人が入れないところを歩くのだとか。「雪が積もっているときだけ楽しめるプログラムです。先人たちが愛し、後世に残してくれたブナの林や美しい沢など、秋田の冬の大自然をとことん堪能してください」
名産の魚に牛、発酵食品、ブナ林にたたずむ秘湯…。秋田の冬は、予想以上に知られざる魅力が詰まったところだった。(今泉有美子、写真も/SANKEI EXPRESS)