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社会
【おおすみ衝突】海自艦と衝突 釣り船転覆2人重体
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衝突した海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(8900トン、艦長・田中久行2等海佐)と釣り船(船長・高森昶さん)の比較=2014年1月15日午前8時ごろ、広島県大竹市の阿多田島沖の瀬戸内海
1月15日午前8時ごろ、広島県大竹市の阿多田島沖の瀬戸内海で、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」(8900トン、艦長・田中久行2等海佐)と釣り船が衝突し、釣り船が転覆した。船長と釣り仲間3人の男性計4人が海に投げ出され、おおすみと付近にいた作業船が救助したが、船長と男性1人が意識不明の重体。残る2人にけがはなかった。
現場は船舶の航行が多い海域。晴れで波も穏やかだったという。運輸安全委員会の船舶事故調査官は現地での調査を開始。第6管区海上保安本部(広島)は、業務上過失往来危険容疑で、おおすみの乗組員とけががなかった釣り船の2人から事情を聴くなどして事故の状況を調べている。
6管本部によると、両船は行き先からみて同じ方向に航行し、並走していた可能性がある。おおすみの左舷中央後部に衝突の痕跡のようなものを確認。防衛省関係者によると、左側を航行していた釣り船をやりすごそうと減速後、事故が起きたとみられる。
首相官邸は危機管理センターに対策室を設置。安倍晋三首相(59)は、再発防止と原因究明のため海上保安庁の捜査に協力するよう小野寺五典防衛相(53)に指示。小野寺防衛相は15日午前の記者会見で「誠に遺憾。捜査に全面協力したい」と述べた。
6管本部によると、釣り船の4人はいずれも広島市中区在住。全員救命胴衣を着けていなかったが、船内にあれば違法ではないという。重体となったのは船長の高森昶さん(67)と大竹宏治さん(66)で、残る2人は寺岡章二さん(67)と伏田則人さん(67)。高森さんらは山口県岩国市の病院で治療を受けている。
釣り船は長さ7.6メートルで高森さんの所有。午前7時10分ごろ、広島市の係留施設を出港し、甲島周辺に釣りに向かう途中だった。おおすみは午前6時半ごろ、所属する広島県呉市の海自呉基地を出発し、定期点検のため岡山県玉野市の三井造船玉野事業所に向かっていた。
防衛省には午前8時6分に通報があり、防衛相には午前8時20分ごろ、連絡が入った。
おおすみは全長約180メートルで乗員は135人。医療設備や補給設備を備え、昨年(2013年)10月には豪雨被害を受けた伊豆大島に重機を輸送、昨年(2013年)11月には台風被災地のフィリピンに派遣された。
阿多田島は大竹市沖約8キロで、山口県との県境付近。
≪汽笛、突如2回 「こんな大きな事故は今までない」≫
穏やかな朝の海に大きな汽笛が2回、響いた。1月15日、阿多田島沖で「おおすみ」と釣り船が衝突した事故。冬の海に投げ出された男性はクーラーボックスにしがみつき助けられた。
「ポーッ、ポーッ」。午前8時ごろ、霧がかかったときにしか鳴らない汽笛が突如、鳴った。阿多田島漁協の女性職員(59)は慌てて海を見た。晴れた寒空の下に見慣れない灰色の自衛艦の姿があった。
同じころ、阿多田島の桟橋工事の警戒で船を出していた中村孝春さん(76)も同じ汽笛を聞いた。自衛艦のすぐそばに小さな黒い何かが浮いているのが見えた。「転覆か」。工事作業員を乗せて船を出した。約2キロ。だんだん近づくとクーラーボックスにしがみつき、漂う男性がはっきりと見えた。
「大丈夫か」と声を掛ける。つぶやくように「大丈夫」と返ってきた。別の船で来た作業員と3人がかりで引き上げた。体を震わせ、もう言葉が出てこない男性を自衛艦から下りてきたボートに引き渡した。第6管区海上保安本部によると、釣り船の伏田則人さん(67)とみられる。
中村さんは「助かってほしいという一心じゃった。この辺は航路も広く、見晴らしも良い。こんな大きな事故が起きたことは今までない」と話した。
重体の船長、高森さんら2人が引き上げられた山口県岩国市の桟橋。近くの通船会社会長、平本照雄さん(66)は「午前8時半すぎに、桟橋を使わせてほしいと連絡を受け、9時15分ごろに巡視艇が着いた。2人は担架で運ばれていて、消防隊員が心臓マッサージをしていた」と話した。
救助された寺岡さんの妻によると、4人は釣り場で知り合った仲間。「午前7時に集まる」と自宅を出た。正午ごろ「事故があったけど無事」と電話があったという。(SANKEI EXPRESS)