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ネガティブな固定観念払拭したい 映画「自由と壁とヒップホップ」 ジャッキー・リーム・サッローム監督インタビュー
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「女性たちもラップを通して自己表現する楽しさに目覚めてきた」と語るジャッキー・リーム・サッローム監督=東京都渋谷区(高橋天地撮影) ヒップホップグループが自分の曲で政治的メッセージを紡ぎ出すことは、取り立てて珍しいことではない。ただ、MCの担い手がアラビア語を話す中東・パレスチナ在住の若者たちとなれば、事情は違ってくる。シリア人の父とパレスチナ人の母を持ち、米国で生まれ育ったアラブ系米国人、ジャッキー・リーム・サッローム監督が手がけたドキュメンタリー映画「自由と壁とヒップホップ」は、パレスチナのヒップホップムーブメントに初めてスポットを当てた作品として興味深い。作品の“PR”で来日したサッローム監督は「世界の人々がアラブ人に抱く固定観念、特に9・11(米中枢同時テロ)以降、急速に広がった『テロリスト』『野蛮』『怖い』といったネガティブなステレオタイプをこの映画を通して払拭したかった」と力を込めた。
1990年代の後半、イスラエル領内にあるパレスチナ人居住地区で史上初となるパレスチナ人ヒップホップグループ「DAM」が生まれた。仏紙「ル・モンド」が「新世代のスポークスマン」と紹介したイケメンの3人組は、アラビア語ラップの先駆者だ。本作では、占領、貧困、差別に疲弊し生きる意味を見いだせなくなった若者たちに夢を語り、パレスチナ人としての誇りを取り戻させようと奮闘するDAMと、彼らの影響を受けたグループたちの姿が、スタイリッシュな映像とともに描かれている。
サッローム監督がDAMと出会ったのは大学院在学中の2002年。たまたま聴いていたラジオにゲスト出演したイスラエルの映画監督、ウディ・アローニがDAMの「Who’s the Terrorist?」を紹介した。サッローム監督は「衝撃を受けました。だって、パレスチナ人がヒップホップをやるんですよ。私はさっそくその曲をインターネットでダウンロードして、英訳の歌詞と、とても米国のメディアでは流れないようなインティファーダ(パレスチナ人の民衆蜂起)の映像をモンタージュしてミュージックビデオを作ってしまいました」。
クラスメートに見せたところ、反応はすこぶる良かった。サッローム監督が驚かされたのは、アラブ人への誤解を解こうと映画を撮り続けてきたサッローム監督に対し、「政治的すぎる」と常に批判的だったクラスメートの一人が好意的な態度を示したことだった。「言葉はアラビア語であっても、彼らが大好きなヒップホップだったからですよ」。サッローム監督はこう考えた。その後、4年半をかけて完成させたのが本作だ。
一つのメッセージだけを込めたわけではなく、観客にはいろんな捉え方をしてほしいと願ってやまない。「例えば、女の子たちがラップをする姿も挿入されています。女性の社会的な地位を考える材料にもなるし、女性ラッパー本人だけではなく彼女たちの家族の考え方を知ることにもつながります。ひとくくりにパレスチナ人といっても、イスラエル領、ガザ地区、西岸地区では考え方も違いますからね」。2月8日から東京・渋谷アップリンク、2月1日から大阪・第七藝術劇場ほか全国順次公開。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)