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経済
米、量的緩和を再び縮小 通貨下落 脆弱5カ国世界の足かせ
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≪東証一時500円超下げ≫
世界に大量のマネーを供給してきた米国の量的金融緩和策の追加縮小決定をきっかけに、新興国経済の先行きへの不安が再燃した。1月30日の東京株式市場で日経平均株価が前日比で一時530円安と大幅に下落。各国の利上げで、落ち着くかに見えた世界の金融市場に再び動揺が広がっている。平均株価の終値は、376円85銭安の1万5007円06銭。取引開始直後からほぼ全面安の展開となり、東証1部の約95%が下落して終えた。
29日の米連邦準備制度理事会(FRB)の米連邦公開市場委員会(FOMC)は、2月から米国債などの購入額を月750億ドルから650億ドル(約6兆6300億円)に縮小することを決定。FOMC前にアルゼンチンなどの通貨が急落したことから、FRBが新興国経済に配慮し緩和縮小を先送りするという一部の期待を裏切る格好となった。これを受け29日の米国株は大幅下落。30日のアジア株式市場もほぼ全面安となり、欧州株式市場も続落して始まった。
先行きについて、ニッセイ基礎研究所の上野剛志シニアエコノミストは「利上げは対症療法に過ぎず、不安定な状況は長引く」とみる。一方で「日米経済は堅調で、過度に懸念しない」(野村ホールディングスの柏木茂介CFO=最高財務責任者)との意見もあり、米景気回復に、世界経済を牽引(けんいん)するだけの力強さが出てくるかが注目されている。
≪通貨下落 脆弱5カ国世界の足かせ≫
米国の量的緩和縮小にともなう金融市場の動揺が止まらない。通貨下落に見舞われた新興国の一部は1月28日以降、相次いで利上げによる通貨防衛策をとり、混乱はいったん収まったかにみえた。だが、29日に米国が一段の緩和縮小を決めると再び通貨安や株安が進んだ。脆弱(ぜいじゃく)な経済構造を抱える新興国の通貨下落が際立っており、米量的緩和の縮小があぶり出した新興国リスクが世界経済の足かせとなる恐れも浮上している。
「トルコは市場予想を大きく上回る利上げに踏み切り、通貨防衛に強い決意をみせていたのだが…」
30日、ある大手企業の運用担当者は首をかしげた。先週後半、アルゼンチンの通貨不安に端を発した混乱が新興国に広がり、自国通貨が売られたトルコの中央銀行は28日、利上げを決定。主要政策金利を現行の4.5%から10%へと引き上げた。
通貨リラは下げ止まり、利上げの声明公表から2時間後に開いた東京株式市場も大きく反発した。インドや南アフリカの中銀も主要政策金利を引き上げ、新興国発の不安の連鎖が断ち切られる期待を抱かせた。
だが、FRBのFOMCは29日、資産購入額を100億ドル減らす緩和縮小策を発表。これを受けて新興国通貨は再び売られ、株安も進行した。
米量的緩和の縮小観測が浮上すると、新興国に流れ込んでいた投資資金が流出。新興国の通貨下落や株安を招き、世界に波及する。そんな構図は、FRBのベン・バーナンキ議長(60)が緩和縮小方針を示した昨年(2013年)5月以降、何度も繰り返されてきた。
動揺が再燃する背景にあるのが、ブラジル、インド、インドネシア、トルコ、南アフリカの「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5カ国)」と呼ばれる新興国群だ。経常赤字や外貨準備が少ないといった国内の経済構造から、通貨が売られやすい。
新興国の通貨下落について、国際通貨基金(IMF)のホセ・ビニャルス金融資本市場局長は28日「新興国市場の国内問題と結びついている」と述べ、米量的緩和縮小が原因との見方を否定した。ただ、29日にFOMCが出した声明文には新興国への言及がなく、「これが投資家の不安をかき立てた」(外国為替アナリスト)との指摘もある。
先週からの世界的な株安では、製造業の経済指標が弱かった中国の先行き不安も重なった。新興国には中国との経済的なつながりが強い国も多く、明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミストは「新興国発の混乱が中国に波及するようなことになれば、世界経済が受けるダメージは格段と大きくなる」と指摘している。(塩原永久/SANKEI EXPRESS)