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【ジャンプ】41歳葛西「銀」 着地の差 メダルの色を分ける
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【ソチ五輪】ジャンプ男子ラージヒル=2014年2月15日、ロシア・ソチ、※上段は1回目、下段は2回目、丸数字は順位、カッコ内は飛距離 ソチ冬季五輪のノルディックスキー・ジャンプ男子ラージヒルで銀メダルに輝いた葛西紀明は、2位と分かった瞬間、一瞬だけ天を仰いだ。「祈る気持ちだったけど、(優勝した)ストッホにあそこまでのジャンプを飛ばれたら無理」。仲間に囲まれ、悔しさはすぐに押し殺した。本当に惜しかった。ストッホとの差はわずか1.3点。飛距離換算すれば70センチほどの差だった。
メダルのチャンスもあったノーマルヒルの2回目に力んでミスをした反省から、この日は1回目でトップ3につける作戦を立てた。助走直前に「リラックスするのと上半身の力を抜くため」とあえて笑みもつくった。そして1回目は、ヒルサイズまで1メートルに迫る139メートルの大ジャンプ。2回目はめまぐるしく変わる風の中、133.5メートル。最後に飛んだストッホは132.5メートルだったが、着地の際に足を前後に広げるテレマーク姿勢の美しさが、2回とも相手の方が上だった。腰の痛みもあり、葛西は万全の着地姿勢が取れなかった。
優勝は逸したとはいえ、立派な銀メダルだ。横川コーチは「長年、追い求めていたジャンプが出たと思う。空中の進みは世界で一番速いし、難しい風の中で確率が高い」と称賛した。
葛西はこれまで、世界選手権を11大会、W杯に443試合参戦した。「頭が真っ白だった」という初出場の1992年アルベールビルから22年。海外の若手が台頭する状況で2006年トリノ(ノーマル20位、ラージ12位)、10年バンクーバー(ノーマル17位、ラージ8位)両五輪では力負けし、内心では「もう勝てないんじゃないか」という思いが強まった時もあった。しかし、「自分の力でメダルをもぎ取る」とソチへ乗り込み、7度目の挑戦で自らの経験、英知、技術がぴたりとかみ合った。
≪「金じゃないと涙出ない」≫
7度目の五輪で初めて個人種目のメダルを獲得した葛西は晴れやかな表情で心境を語った。
――悔しさもあるか
「もう少しで金に届きそうだった。6対4で悔しい。悔しさが6。(金銀を分けたのは着地時の)テレマークの差だった」
――2回目を飛んだ後、仲間に抱きつかれた
「みんなが走ってきて、『ノリさん勝ったっすよ』と言ってくれて涙が出そうになるくらいうれしかった。出す用意はしていたけど、ゴールドメダルじゃないと出ない」
――1994年リレハンメル五輪団体のメダルとの違いは
「自分で力ずくで取ったメダルなので、20年前とは比べものにならないくらいうれしい」
――欲しかった個人のメダルが取れた
「誰が勝ってもおかしくない状況で銀メダルを取れたのは、自分でも自分を褒めたい。完璧なジャンプをして金メダルを取りたい気持ちも強い」
――98年長野五輪の悔しさを晴らせたか
「7割ぐらいは晴らせたかな。残り3割は団体も残っているし、そこで晴らしたい」
――みんながレジェンドを尊敬している
「金メダルを取ってこそ、本当のレジェンドになれると思っている。また目標ができた。まだ諦めずに金メダルを目指して頑張る」
――4年後を目指すか
「もちろんです」
≪快挙に「やったー」≫
葛西の地元、北海道下川町の福祉施設では、町民ら約150人が大型スクリーンの前で声援を送った。41歳での快挙に、「やったー」と歓声が上がり、くす玉を割って喜びを爆発させた。
日の丸を?にペイントしたり小旗を振ったりしながら、「葛西、葛西」の掛け声で観戦。2回目でトップに立つと、椅子から立ち上がり、興奮は最高潮に。最後に飛んだポーランドの選手に抜かれ、一瞬ため息が漏れたが、すぐに偉業をたたえる大きな拍手が起きた。
中学卒業までジャンプを教えていた町職員の蓑谷省吾さん(56)は「うれしの一言。少年団の子供にもメダルを見せてあげて」と感無量の表情。幼なじみの道立高校教諭、小南和憲さん(41)は「ものすごいジャンプだった。まずはお疲れさまと言いたい」。安斎保町長(76)は「メダルに届けと見守った。子供たちにも勇気を与えてくれた」と感激していた。
葛西選手が所属する札幌市の土屋ホームにも社員ら約100人が集まり、テレビ画面にくぎ付けとなった。同僚の小田徹さん(41)は「団体こそ金メダルをってほしい」とエールを送った。
「金メダルは取れなかったけど、銀でも大満足です」。葛西の姉、紀子さん(44)は2月16日、取材に応じ「五輪で結果を出してくれた。家族にとって英雄のような存在です」と喜んだ。北海道名寄市の自宅で、夫や子供とテレビ中継を見守った紀子さん。メダルを決めた瞬間、「家中、響き渡るぐらいの大声で、みんなで絶叫した。涙があふれて止まらなかった」。
入院中の妹、久美子さん(36)も、病室のテレビで観戦していた。試合後、無料通信アプリLINE(ライン)で姉や葛西に向け「うれしい」と伝えたという。(SANKEI EXPRESS (動画))