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社会
子供の放課後充実 企業投資で支援 「ベンチャー・フィランソロピー」の取り組み
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「放課後NPOアフタースクール」が提供しているプログラム=2011年5月11日(日本財団撮影)
「ベンチャー企業投資」と「社会貢献活動」。利益を追求する投資と、利益とは無縁の奉仕という正反対の異質なコンセプトの組み合わせから生まれたのが、「ベンチャー・フィランソロピー」と呼ばれる取り組みだ。NPOや社会的活動を行う企業に対して、ベンチャー企業投資のような手法で、資金と経営支援を提供する新しいアプローチである。
日本で本格的に実践しようと、2013年4月に「日本ベンチャー・フィランソロピー基金(JVPF)」が設立された。基金は、投資家育成の専門家で組織される一般社団法人「ソーシャル・インベストメント・パートナーズ(SIP)」と、日本財団が共同で運営している。当初の基金規模は約1億円。2013年12月に第1号のプロジェクトとして、首都圏で小学生のための放課後活動事業を行っている「放課後NPOアフタースクール」への支援が決まった。
放課後に小学生を預かる「学童保育」の潜在的な待機児童は全国に約40万人いるといわれ、子供の小学校入学を機に母親が仕事を諦める「小1の壁」が社会問題化している。
また、ユニセフの調査によると、「孤独を感じる」と回答した小学生は日本が世界で最も多く、子供の自己肯定感や挑戦する力の低下も指摘されている。こうした課題に対応するため、放課後NPOは、学童保育の子供を預かる役割に加え、放課後の子供たちの過ごし方を充実させるため、地域住民が「市民先生」となって多様なプログラムを提供するアフタースクール事業を2005年から実施。私立小学校3校で実績を積んできた。今回のJVPFの支援により、初めて公立校でも導入するなど、より多くの子供たちにプログラムを提供できるよう事業拡大を目指す。
放課後NPOへの支援が正式に決定するまでには、約4カ月にわたる綿密な検討が行われた。事業の目的や社会的意義、市場ニーズ、政策支援、収益モデルについて議論を積み重ねた。
この審査プロセスを主導したSIP代表理事の白石智哉氏は「そもそも受益者は誰なのだろうということから議論を重ね、あるべき事業領域や強みと弱みを検証し、中期計画を一緒に作り上げていきました」と振り返った。その上で、「私たちにとっては事業を理解し支援すべき分野を特定するプロセスであり、放課後NPOにとっては、日々の活動から少し離れて将来を見据える機会となったようです。事業を通じて社会貢献を行う社会企業家が現れていることに頼もしく思った」と話す。
NPOや社会企業家への助成は、1年単位の「お金だけの支援」が一般的だが、JVPFでは、SIPが中心になって、案件ごとに経営コンサルタントやPR会社、法律事務所などのパートナー企業とチームを作り、合意した成果を生み出すため、あらゆるリソースを動員して数年単位でサポートしていく。
「支援先の事業の成否が、そのままJVPFの支援の成否である」というゴールを共有することで、お金だけの支援を超えた共同事業を行う関係になる。
放課後NPO代表の平岩国泰氏は「活動資金も必要だが、経営力や運営能力もまた重要。パートナーと力を合わせて成果を出していきたいと強く決意している。支援の第1号として、今後の事例につながっていくよう頑張りたい」と話している。
「イノベーション(変革)」は、異質なものの組み合わせから生まれる。ベンチャー投資と社会貢献活動の出会いから、日本の未来を変える事業が育っていくかもしれない。(日本財団・経営支援グループ 工藤七子(ななこ)/SANKEI EXPRESS (動画))