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【佐藤真海のパラリンピアン・ライフ】スポーツ通じて思いやり浸透
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ソチ冬季パラリンピックに出場する日本選手団の結団式で健闘を誓う選手たち=2014年2月5日、東京都千代田区(三尾郁恵撮影) 日本選手団の活躍に沸いたソチ冬季五輪が閉幕しました。2012年夏のロンドン夏季五輪・パラリンピックに続き、13年9月に20年東京五輪・パラリンピックの招致が決定し、そしてソチでの「冬の祭典」と、日本でも五輪・パラリンピックへの関心がどんどん盛り上がり、うれしい気持ちになっています。
ソチでもパラリンピックが行われます。私は今回、聖火リレーのランナーの1人として招かれました。開会式前日の3月6日にソチ市内を走ります。ソチでの五輪からパラリンピックへ、そして16年のリオデジャネイロ夏季五輪、18年の平昌冬季五輪を経て、20年の東京夏季五輪へと受け継がれていく「聖火」のバトン。私も走者の1人としてしっかりとつなぐつもりでいます。
1月19、20日に、20年パラリンピックの開催準備について協議する実務者会議「オリエンテーションセミナー」が東京都内で開催され、私も東京都や日本パラリンピック委員会(JPC)の関係者とともに出席しました。国際パラリンピック委員会(IPC)のアンドリュー・パーソンズ副会長らからは、今後の準備や大会運営についての説明がありました。
招致活動を通して顔見知りになったパーソンズ副会長から「マミが来てくれてすごくうれしいよ」との言葉をいただきました。そのパーソンズ副会長は「東京にはスポーツへの情熱を感じる。東京ならではの大会になることを期待している」と、あいさつしていました。
五輪に比べ、世間の関心や注目度でまだまだ途上にあるパラリンピックゆえに、IPCも成熟都市・東京での開催への期待はすごく大きいようです。
五輪とパラリンピックは、ともにスポーツの最高峰の大会だと位置づけられていますが、パラリンピックは競技レベルに加え、すべての人に温かいまなざしや思いやりを向ける多様性のある社会を推進していくための役割も担っていると考えています。日本でもこれからの6年間で、バリアフリー化がより進んでいくとの期待があります。
ただ、決して簡単な道のりではないことも事実です。「20年大会の成功を目指すのはもちろんだけど、社会の意識まですべて変えるのは難しいのではないか」。質疑の中で、東京の招致関係者から不安の声が上がっていました。パーソンズ副会長は、「大会はフィニッシュラインではない。変えていくことはできる」と、前向きに取り組む姿勢こそが大切だと強調していました。それぞれの大会で、少しずつ世界の意識が変わっていくことが大切だという趣旨と理解しました。
「パーフェクトな大会」。12年ロンドン大会は、パラリンピック関係者の間で今も語り草となっています。
英国の民放で放送されるなど、地元メディアがこれまでの大会以上に深く関わったことで英国内での人気が高まり、好調なチケットの売れ行きにつながりました。私が出場したときも、競技場は満員の観客で埋まり、とても幸せな気分でした。同時に、スポンサー企業への好感度も上がりました。
例に挙げると、英国のスーパーチェーンでは、サッカーの元イングランド代表主将、デービッド・ベッカム氏が目隠しをしてブラインドサッカーを試みるCMを流しました。ベッカム氏ですら視界をふさがれればシュートが決まらないというシーンを通じて、パラリンピック競技のレベル、アスリートの能力の高さを伝えたのです。CMは、ベッカム氏がブラインドサッカーの選手に肩を貸し、誘導してフィールドを後にする場面で終わります。視覚障害のある人へのサポートの仕方を自然な形で伝えています。
大会の成功で、英国では障害者の雇用環境の改善につながっていく道筋も示されました。
もちろん、東京がロンドンのまねをする必要はありません。リオにはリオの、東京には東京での新たなパラリンピック・ムーブメントが起きていくことが大切だと思います。
例えば、足をけがした経験のある人ならば、階段を昇ったり降りたりする大変さがわかるでしょう。街を歩く人の中には、妊婦さんやベビーカーを押すお母さん、海外からスーツケースもった旅行者もいれば、お年寄りや子供たちもいます。いろいろな人の立場になって、快適な暮らしとは何かを考えていくことが第一歩になるのではないでしょうか。
社会の意識が変わるのは、大変なことですが、スポーツを通してなら、より多くの人の共感を得やすいと思います。ロンドンは、競技としてのレベルの高さで関心を高め、思いやりの精神をうまく社会に浸透させました。東京での大会はどういうものになるのか。ソチにも、成功のヒントがあるかもしれません。聖火とともに、受け継げる何かを持ち帰ってきたいと思います。(女子走り幅跳び選手 佐藤真海(まみ)/SANKEI EXPRESS)