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【円游庵の「道具」たち】自然を育む色 丸若裕俊

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【円游庵の「道具」たち】自然を育む色 丸若裕俊

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天然染料のみで染められたストール(大山実撮影)  京都の近郊に工房を構える「染司(そめのつかさ)よしおか」。今回は、国内外で多くの人々を魅了する“染め”を生み出す同工房についてご紹介したい。

 同工房の敷地内には、染めの工程に合わせた設備とともに、数多くの木々が植えられている。水の流れる音、木々の重なる音が何とも言えず美しい。すがすがしい空間に一歩足を踏み入れたときに感じられる、無意識に背筋が伸び、不思議と心を落ち着かせる感覚は、何度訪れても変わらず、そこが彼らにとって一種の聖域であることを暗示させる。

 染めにかける想い

 「染司よしおか」の名は、伝統技術の世界でも高名であるとともに、どの品も手に取ってみれば言葉を介さずともその気品と洗練さを体感することができる名品ぞろいだ。

 単なる美しい色であれば、世の中に数多く存在する。

 しかし、同工房の作り出す色が、その中でも取り分けて多くの人の心をつかみ続けるのは、その豊かな色彩が、われわれに自然そのものの奥深さを感じさせてくれるからではないだろうか。

 「染司よしおか」の名品は、古来の染色方法に重きを置き、自然物から伝統的技法により特徴的な製法によって生み出されている。

 前述の敷地内の木々も、その多くは、実際に染めの原材料となる木々だ。

 品質を保つ確かな原材料の入手にかける情熱はすさまじく、自ら草木花を育て、時には栽培農家を探し出し説得することもあるという。

 技術の追求と伝統

 赤系、青系、緑系、黄系等々、同工房が生み出す色は、実際に目にすると、これが植物から得られた天然染料のみで染められたものであることを疑いたくなる程に多彩で、生き生きと鮮やかに美しく、不思議な深みがある。

 これらの品々については、一切の化学染料を排し、近年数少なくなった伝統的な製法を守って生み出されてきたものだからこそ伝わる魅力があるのだという人もいるだろう。

 しかし私は、天然染料を使うこと自体は目的ではなく手段だと感じる。同工房の職人たちは、紛れもない染色のプロフェッショナルだ。より美しい彩りを生み出したいという目的を達成するために最良の方法を日々模索し続け、その結果が全ての製作工程に反映されている。

 つまり、彼らにとって、目指す染色を行うために吟味し尽くされた最良の手段が伝統的技法の追求なのであり、古(いにしえ)からの技法を磨き上げることこそが革新なのである。

 職人とは、自然の持つ“魅力”を、卓越した技術により私たちの身の回りの品へと形を変え届けてくれる存在だと、私は時折感じる。

 彼らの形式に捕らわれない自由な発想、自然への畏敬と愛着、古より積み重ねられた知恵が融合した結果が、現代に生ける伝統となり、私たちに魅力あふれる品々を届けてくれるのだろう。

 そしてたゆまぬ日々の鍛錬がその伝統の更新と、まだ見ぬ出会いによる新しい価値をも生み出していくに違いない。(企画プロデュース会社「丸若屋」 丸若裕俊/SANKEI EXPRESS

 ■まるわか・ひろとし 1979年東京都生まれ。企画プロデュース会社「丸若屋」(maru-waka.com)代表。九谷焼・上出長右衛門とスペインの著名デザイナー、ハイメ・アジョン氏がコラボレーションした磁器など、日本の高品質な技術をいかした現代的な製品をプロデュースする。東京都台東区に、自身が手がけたり、これまでに出合った“道具”が並ぶ数寄屋造りをベースとしたショールーム「円游庵」を設置している。

 ■染司よしおか 京都で江戸時代から5代続く植物染め(草木染め)染屋。化学染料を一切使わず、日本古来の染色法を再現し、植物の花や実、樹皮、根から色をくみ出す。

 地下100メートルからくみ上げられる伏見の水と素材に向き合う人の手により、ゆっくりゆっくり自然とより添いながら、その美しい色は生み出していく。5代目当主は日本の染色界の第一人者、染織史家・吉岡幸雄。

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