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世界的資料も多数 蔵書コレクション(下) 「玄白に親近感」 本物に触れる体験
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色鮮やかな「平家物語」絵本=2014(平成26)年3月11日、東京都日野市(明星大学_有志学生記者撮影)
「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり…」で有名な平家物語。明星(めいせい)大学は、江戸時代前期に製作された貴重な絵本を所蔵している。この絵本は全12巻から成るが、1巻と12巻が失われていて、明星大学にあるのは2~11巻だ。
「祇園精舎の鐘の声…」が描かれている1巻がないのは残念だが、実際に絵本を目にすると、絵の具や金粉をふんだんに使った鮮やかで優美な絵柄に圧倒された。
江戸時代前期に作られたものとは思えないほど、絵も文字も色あせることなく当時のまま現代に伝えられている。「大名クラスの家で、娘の嫁入道具として持たせたいわゆる『嫁入り本』ではないか」という。
杉田玄白らが翻訳し、1774年に出版された「解体新書」も見ることができた。ドイツ人医師クルムスの医学書のオランダ語訳本「ターヘル・アナトミア」を、オランダ語がほとんど分からない杉田らが3年かけて解読した血と汗の結晶ともいえる有名な書物である。
もちろん、「解体新書」出版の苦労話が詰まっている杉田玄白の「蘭学事始」(1869年出版)もある。
実物を目にすることで、「ターヘル・アナトミア」では解剖図の顔がまさしく外国人だったのに、「解体新書」では少し日本人の顔に描かれていることがわかり、不思議と杉田玄白に親近感がわいた。
米国の南北戦争時代に第16代大統領のエーブラハム・リンカーンが発布した直筆サイン入りの「奴隷解放宣言」も目にすることができた。サインは少し薄れかかっていたが、はっきりと読めた。
1852年に米国のストウ夫人によって書かれた小説「アンクル・トムの小屋」の初版もあった。この本は黒人奴隷トムの数奇な人生を描いた物語で、発刊当時、大きな反響を呼び、その後の奴隷解放問題で米国が分裂した南北戦争の一因にもなったといわれている本だ。
このほか、蔵書には「国富論」の初版や「グリム童話」など有名な書物が数多くある。
≪歴史・文化の発信基地 図書館リニューアル≫
世界的に貴重な古い書物や資料はもろく、その保管には、適切な温度と湿度を厳重に保つ必要がある。明星大学では、「稀覯書」などを所蔵する「明星大学資料図書館」のリニューアルを行っており、大学創立50周年の式典が行われる今年(2014(平成26)年)10月26日に新装開館する予定だ。
もともとは、1976年に建てられた大学図書館。リニューアル後は、劇的にその姿が変わる。入り口をくぐると、舞台の緞帳(どんちょう)をイメージした赤いエントランスアプローチが出迎える。2階中央には、完成イメージのようにスケルトン構造を採用し、床からは木のぬくもりを感じることができる「稀覯書閲覧室」が設けられ、世界的に貴重な書物や資料を直接目にしたり、手に触れたりできる。
また、明星大学の歴史や教育活動を紹介する「明星教育センター展示室」のほか、企画展などを催すスペースを新設。リンカーンに関する貴重な資料を集めた「東京リンカーンセンター」もリニューアルされる。
パソコンなどを置いた学習スペースも開設。学生たちが気軽に立ち寄り、「本物に触れる体験」ができるように配慮しているのも特徴だ。(今週のリポーター:明星大学 有志学生記者/SANKEI EXPRESS)
今回の取材を通じ、教科書で習った歴史的な書物を目にし、手に触れることができた。シェークスピアの「ファースト・フォリオ」を目にしたときは、約400年も前の書物に圧倒され、手を触れるときは肩に力が入り緊張した。平家物語の絵本の鮮やかな絵柄は、鳥肌が立つほどだった。
最初は「稀覯書(きこうしょ)」といわれても、ピンとこなかったが、取材を重ねるうちにどんどんと興味が湧き、気づいたら次から次へと質問があふれ出てきたことに驚いた。
自分たちが通う大学に誇りを持つこともできた。この記事を読んでくれた人たちが、「稀覯書」に興味を持ち、明星大学に足を運んでくれたらうれしい。
明星(めいせい)大学 有志学生記者
<取材・記事>
石原智里(人文学部2年)、工藤未咲(教育学部1年)、駒崎琴美(教育学部1年)
<写真>
黒田清哉(人文学部4年)、荻野望 (経営学部2年)