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【取材最前線】「建築ってすごい」

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【取材最前線】「建築ってすごい」

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エストニア  「世界はチャンスに満たされている」(学芸出版社『海外で建築を仕事にする』より)。若き建築家、田根(たね)剛さん(34)の言葉だ。

 海外で力を試したいと思うのは、Jリーガーやプロ野球選手だけではない。いまや欧米の有名設計事務所で、多くの日本人が活躍している。成長著しいアジアで経験を積む若手建築家も多い。

 主に北欧で建築を学んだ田根さんが、大きなチャンスを引き寄せたのは26歳のとき。レバノン出身、イタリア出身の建築家仲間と3人でエストニア国立博物館の国際コンペ(設計競技)に参加、見事優勝したのだ。すぐに3人の名を取って「DGT(ドレル・ゴットメ・タネ/アーキテクツ」をパリに設立、若くして独立した。

 バルト三国のひとつ、エストニア第2の都市、タルトゥの森に国立博物館の建設予定地はある。エストニアは1991年にソビエト連邦から独立したが、予定地のかたわらには、ソ連時代に森を切り裂いてつくった空軍の滑走路跡がある。田根さんらの案は、負の遺産である滑走路と、新しい国のアイデンティティーを担う国立博物館を一直線でつなぐという、斬新なものだ。

 1カ月ほど前、帰国した田根さんに進捗(しんちょく)状況を聞くと、既に地下の基礎はできあがり、建物本体の建設に入ったという。実は、経済危機などで2度ほどプロジェクトは頓挫。一昨年になってエストニア政府は国債を発行し建設に乗り出した。もちろん予算はカット、計画は変更に次ぐ変更となった。

 「(変更は)自分の体を切り刻むようにつらい作業。でも、国として作るんだと腹をくくって借金までしてくれた。若い、名もない建築家にエストニアは賭けてくれた。すごいことです」

 田根さんはかつてJリーグのユースチームに所属し、プロを夢見るサッカー少年だった。才能の限界を感じて目標を見失ったとき、図書館の本でガウディの建築を見たことが、建築の道に進むきっかけのひとつとなった。

 「エストニアの現場に行くと、氷点下15度の中、職人がコンクリートを打っている。壮絶です。パリで自分たちが机の上で考えたことが、かたちになってゆく。すごいな建築って思う」

 2016年完成予定。エストニアを旅する理由ができそうだ。(黒沢綾子/SANKEI EXPRESS

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