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【鋤田正義 meets 黒木渚】楽しくて楽しくて、涙が出た
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九州出身の音楽アーティスト、黒木渚さん(鋤田正義さん撮影) 思い返してみれば、私という人間は大人になればなるほど涙を流す回数が増えてきたように思う。
思春期、私はほとんど人前で泣かなかった。泣きたい場面も人並みにあったが、弱い人間だと思われるのも嫌だったし、何より感情の高ぶりを人に見られることが恥ずかしかったのだ。
私は日記を付け、精神状態のブレを平らにならす作業を何年間も続けていた。人前で取り乱したり、はしゃぎ過ぎることがないよう、自分で自分を監視していたようなものだ。
強い女に憧れていたせいもあるだろう。私は母の涙を見たことがない。日々の出来事に翻弄される自分の中身を悟られないように生きてきた私が、ある日音楽に出会った。そして表現して生きる道を選んだのだ。
音楽を続けているうちに分かったことがある。曲を作ることやライブをすることは、この上なく人間くさい作業だということだ。今まで私がしてきた努力とは真逆の方向ではないか。人さまに見られぬよう閉じ込めて押し殺してきたものこそ、私が表現すべきものなのだということに気がついた。
それは不器用な私が、人間らしくなるためのリハビリに近いものだった。自分自身のことについても、他人のことについてもよく目をこらして音楽に焼き付けること。不思議なことに、表現することに本腰を入れると、それまであまり深入りしなかった他人のことについてもにわかに興味が湧いてきた。
客席から見ている人が涙を流しているのにつられてもらい泣きをしたり、あんなに練習したのにうまくできなかった自分に悔し涙を流したり、と流す涙の種類も増えていく。
そして、ここ近年で一番多いのが幸せなことにうれし泣きなのだ。感激して涙が出るなんて昔の私からすれば想像もできない。でも確かに何かが私の中で変わったのを感じる。ステージで涙が出たって、叫びをあげるぐしゃぐしゃの顔を見られたってもう恥ずかしくない。
4月3日、渋谷タワーレコードの地下ライブハウスにて「黒木渚フルアルバム発売記念イベント」が開かれた。
トークショーとライブの2部構成で、一緒にアルバムを制作してくださったプロデューサーの松岡さんにも参加していただいた。それから、木村カエラさんやtoeといったバンドで活躍されているドラマーの柏倉さん、元マルコシアスバンプのベーシスト佐藤さん、ケラケラなどでもギターを演奏している井手上さんなど、ライブをサポートしてくださるミュージシャンの方々も一緒だった。もちろんその会場には、カメラを構える鋤田さんの姿もあった。
トークショーではアルバムの制作過程でのエピソードなどを思い返しながら完成の喜びを分かち合った。そしてライブは、ソロ後初めてのバンド形態でのパフォーマンスとなった。
アルバムのレコーディングが完了し、リリースまでの間、私は全国を弾き語りでライブしながら回った。ずっとバンドで活動していた私が最初に受けるべき洗礼だと思ったのだ、一人でもきちんとステージを完結させられるようになることは。そして、私が共演を熱望していたミュージシャンの方々とバンド形態でのライブである。楽しさが倍増していた。
ライブの間は無我夢中で、正直あまり記憶がない。演者の顔、お客さんの顔、シャッターを切る鋤田さんの顔、それらがコマ送りの映像のように残っているだけだ。しかし、楽屋に戻り一息ついてから感情の余波がやってきた。私はえも言われぬ大きな幸福感に包まれて、子供のように泣いてしまった。
楽しかった。楽しかった。ただ、ただ、楽しかった。(音楽アーティスト 黒木渚/撮影:フォトグラファー 鋤田正義/SANKEI EXPRESS)
■黒木渚 ONEMAN LIVE TOUR「革命がえし」 5月16日(金)仙台darwin。6月1日(日)渋谷公会堂
■鋤田正義 RETROSPECTIVE SOUND & VISION (会期)7月6日(日)まで。(会場)舞鶴赤れんがパーク5号棟。(住所)京都府舞鶴市字北吸1039の2。(入場料)一般300円(税込み)