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介護とは管理ではなく自由にさせること 「それでも猫は出かけていく」著者 ハルノ宵子さん
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漫画家、エッセイストのハルノ宵子(よいこ)さんと“運命の猫”シロミ。カメラを構えると必ずポーズをとってくれるという女優っぷり=2014年5月20日、東京都文京区(塩塚夢撮影)
父は思想家・吉本隆明、母は俳人の吉本和子、妹は作家のよしもとばなな。そんな吉本家の長女で漫画家のハルノ宵子さん(57)が、8年間にわたって連載してきたエッセー『それでも猫は出かけていく』が刊行された。家猫4匹(執筆当時)に加えて外猫、通りすがりの猫十数匹が出入りする吉本家。自分で排泄をコントロールすることができない美猫・シロミを軸に、都会の生き物の生と死をハードボイルドに見つめた。
「よくもまあ、この家の中だけでこんなにも事件があったものだと、連載をまとめて自分でも改めて驚きました」。東京・駒込の名刹に近い吉本家は、いつでも猫が自由に出入りできるよう常に開放されている。「35年ぐらい、ずっとこんな感じ」。歴代の猫はほとんどが“病持ち”で、吉本家と交友の深いコピーライターの糸井重里さん曰く「まるで野戦病院」だ。「弱い者を見ると、自然に動いてしまう。自分でもおかしいかも、と思うんですけれど、人でも猫でも、同じように助けてしまうんです」
8年前のある日、隣の墓地で真っ白な子猫を拾った。それが“運命の猫”シロミだった。尻尾の付け根の脊髄を損傷しており、排泄のコントロールができない。運動機能には問題がないので、“垂れ流し”のままチョコマカと動き回る…。普通の猫の5倍は大変だと獣医に言われた。それでも、母親の反対を押し切って飼うことを決めた。そのとき、自分の中で何かが変わったのだ-。
それからの8年間はまさに激動だった。シロミばかりか両親の介護、自身の病気が重なった。「シロミは私にいろんなことを教えてくれた。一番考えさせられたのは、『介護とは何か』ということ。当初、シロミを数カ月間一つの部屋で育てていたんですが、それが自由を求める彼女の心に影を落としてしまった。介護とは、管理するのではなく自由にさせることなのだと気づいた。親の介護についても、老人は勝手に起きてきて好きなときに食べるものだけれど、それを限りなく許そう、と」
両親とシロミの“トリプル介護”。「介護マニアか、って感じですね」と笑う。「乗り越えるコツは、相手の気持ちに引きずられないこと。自分は自分、人は人。その距離感の置き方は、長年の猫との付き合いから学んだのかも」
絶妙な距離感は、いわゆる“猫かわいがり”ではない文体にもあらわれる。「猫の形態ではなく、命のあり方そのものへの興味だからでしょうか」
介護の対象は人、猫にとどまらず、金魚まで。なぜ、助けるのか。「食べようとしている、もしくはこの世界の何かに興味を持って見ている。このどちらかが残っている場合、生きようとしている力の手助けをしています」。潔い。
両親を見送った一軒家で、今も暮らす。それは猫のためだ。「何一ついらないけれど、ここにいる必要はある」。人も、猫も。限りなく対等な命の記録だ。(塩塚夢、写真も/SANKEI EXPRESS)
「それでも猫は出かけていく」(ハルノ宵子著/幻冬舎、1500円+税)